妊娠中ビタミンD不足だと赤ちゃんの骨が軟化し「頭蓋ろう」に

 一方で、赤ちゃんが生まれてからだけではなく、妊娠中もお母さんがビタミンD不足にならないようにすることが重要。お母さんがビタミンD不足だと、赤ちゃんの頭の骨が薄く指で押すとへこむ「頭蓋ろう」になることがあるからだ。頭蓋ろうは赤ちゃんのビタミンD不足で起きる、最も早期の症状の代表ともいわれている。

 2006年5月~07年4月までに京都市内の産婦人科病院で1年間に誕生した1120人を対象に生後5~7日目の頭の状態を調べた研究では、246人(22%)に頭蓋ろうが認められた。生まれた季節によって発生率は異なり、妊娠後期の日照時間が短い冬に当たる5月生まれの子に最も頭蓋ろうが多く、11月生まれが最も少なかった(下グラフ)。

1120人の新生児を対象に、頭蓋ろうの発生率を調べた。妊娠後期が日照時間が短い冬に当たる5月生まれの子に最も頭蓋ろうが多く、11月生まれが最も少なかった(データ:J Clin Endocrinol Metab. 2008 May;93(5):1784-8.)
1120人の新生児を対象に、頭蓋ろうの発生率を調べた。妊娠後期が日照時間が短い冬に当たる5月生まれの子に最も頭蓋ろうが多く、11月生まれが最も少なかった(データ:J Clin Endocrinol Metab. 2008 May;93(5):1784-8.)

 前述の「栄養性のくる病予防と診断・治療に関する国際的コンセンサスと勧告」では、「妊娠中の女性は、1日 600IU(15㎍)のビタミンDを、鉄や葉酸など、推奨されているほかの微量栄養素と組み合わせた製剤で投与されるべき」としている。

「お母さんの妊娠中のビタミンD摂取量は、子どもが9歳になったときの骨密度に影響するとの報告もあります。ビタミンDやカルシウムは胎盤を通して赤ちゃんの骨を成長させるので、特に紫外線量の少ない秋から冬にかけ、妊婦さんはビタミンDが豊富な食品をしっかり取り、日焼け止めクリームを使わずに日光を浴びるようにしましょう」と坂本さんは話す。

ビタミンDの合成に必要な日光浴時間はサイトで確認を

 10㎍のビタミンDを合成するために必要な日光浴の時間を知るためには、国立環境研究所地球環境研究センターの「ビタミンD生成・紅斑紫外線情報」サイトのモバイル版(db.cger.nies.go.jp/dataset/uv_vitaminD/ja/mobile/index.html)が参考になる。このサイトでは、全国12カ所の10㎍のビタミンDを生成するのに必要な紫外線照射時間が、ほぼリアルタイムで確認できる。

 紫外線照射時間の表示は、長袖長ズボンで顔と手を露出(肌600cm2を露出)した状態、半袖半ズボン(ミニスカート)で顔と手の甲に加えて両腕、膝から下の部分も露出(肌1200cm2露出)した状態の2パターン。「お勧めする日光照射時間」が、10㎍のビタミンDを生成するのに必要な時間、その下の表示が、それ以上浴びると皮膚が赤くなる(シミの原因になる)など有害になる恐れのある紅斑紫外線照射時間だ。紅斑紫外線照射時間を超えて日光浴をしなければ、しみや皮膚がんのリスクが増える心配はないとされる。
 
「冬は風邪をひかせないように、夏は熱中症が心配でと、赤ちゃんの外出を控えがちにするお母さんもいるようですが、妊婦さんもお母さんも、そして赤ちゃんも、冬は昼間の比較的暖かい時間帯に、夏は朝や夕方の涼しい時間帯に意識して日光を浴びるようにしましょう」(坂本さん)

 カルシウムとビタミンDをしっかりとって、くる病やO脚を予防し、骨の強い子を育てたい。ビタミンDが十分にあれば、骨以外の健康も強化されるというおまけもついてくる。

国立環境研究所地球環境研究センターの「ビタミンD生成・紅斑紫外線情報」サイトのモバイル版
参考記事「しみを作らずビタミンDを増やすコツ」

(取材・文/福島安紀、イラスト・グラフ/平拓哉、構成・企画/日経BP総研ヘルシー・マザリング・プロジェクト 黒住紗織)

この人に聞きました
坂本優子さん
坂本優子2000年群馬大学医学部卒業。順天堂大学医学部附属練馬病院助教、米国テキサス・スコテッシュ・ライト病院留学などを経て、2018年6月より現職。同院小児整形外科外来で、乳幼児のくる病、ビタミンD欠乏症の診断・治療を行う。専門分野は、骨代謝、小児整形外科、股関節の異常。日本骨粗鬆学会認定医。子どものくる病、ビタミンD欠乏症を減らすための研究、啓発活動に奮闘中。

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