ビタミンDが不足して、くる病になる子どもが増えている。日本では0~15歳のビタミンD欠乏性くる病の患者が2009年には10万人当たり3.88人だったが、14年には12.3人と約3倍に増えたという報告(※1)がある。くる病は、ビタミンDの不足によって骨が軟化し、脚が変形したり背中が曲がったりする病気。実はビタミンDはこうした骨の健康以外にも、遺伝子の発現や免疫など、健康に重要な役割を担っていることが分かってきており、最も注目されているビタミンだ。そんなビタミンDが、子どもで不足しないようにするにはどうしたらよいのか。順天堂大学医学部附属練馬病院 整形外科・スポーツ診療科准教授の坂本優子准教授に聞いた。
※1:Glob Pediatr Health. 2017 Jun 1;4:2333794X17711342.

母乳栄養や赤ちゃんの紫外線対策がビタミンD不足の原因

 問題のビタミンDは、世界で注目されているビタミン。インフルエンザなどの感染症を予防するという研究があるなど、免疫とのかかわりが深く、がんや糖尿病、心臓病のリスクを下げる、また妊娠や胎児の遺伝子発現にも影響があるなど、その働きの広さが明らかになってきているからだ。

 そんなビタミンDの代表的な役割の一つが、「骨」の健康との関係だ。

 「ビタミンDは、カルシウムの吸収を促し、骨や歯を強くするなどの発育に重要な役割を果たしています。ビタミンDを補うには、鮭や青魚、きのこ類などビタミンDを多く含む食品を摂取する“食事ルート”と、紫外線に当たって体内で合成する“紫外線ルート”の2つがあります。ところが、乳幼児期から紫外線に当たらないようにして“紫外線ルート”を遮断してしまったり、Dが少ない母乳だけで育児することで、子供に不足が起きています。そこにアレルギー対策のためにカルシウムを多く含む乳製品などの食品類を子どもに食べさせない親が増えたことなども加わって、くる病になる子が増えているのです」。坂本さんはそう指摘する。

 ちなみに、完全母乳栄養の子がビタミンD不足になりやすいのは、粉ミルクにはビタミンDが5.5~9.3㎍/100g程度含まれているのに対し、母乳のビタミンD濃度は0.3㎍/100g※2と少ないからだ。「母乳育児は感染症から身を守る免疫物質を与えられ、スキンシップが高まるなどのメリットがありますが、ビタミンDとビタミンKが少ないことが母乳の弱点」と坂本さんは指摘する。

 実際、順天堂大学医学部の小児科のグループが、東京都内と静岡県内在住の健康な0~4歳児290人(女児124人/男児166人)の血液中のビタミンD濃度(25水酸化ビタミンD濃度)を調べた研究(※3)がある。生後0~5カ月の子45人の血中ビタミンD濃度を調べたところ、完全母乳栄養の子は76.9%がビタミンD不足(20ng/ml以下)だった(グラフ)。

 また、同研究の結果、290人中61人(21.0%)の子がビタミンD不足(20ng/ml以下)で、そのうち21人(7.2%)は、極度のビタミンD欠乏(12ng/ml未満)だったという。

※2、粉ミルクのビタミンD含有量は市販7品目の成分表、母乳のビタミンD含有量は日本食品標準成分表 2015年版・人乳(成熟乳)より。
※3 J Nutr Sci Vitaminol.64,99-105.2018

 5人に1人がビタミンD不足という可能性があるわけだ。そこでまず、わが子がD不足の可能性がないか、チェックリストで確認してみよう。

◇赤ちゃんのビタミンDとカルシウム不足のチェックリスト
□完全母乳栄養で育てている
□乳製品か卵の除去食をしている
□フォローアップミルクは使っていない
□乳幼児に日焼け止めクリームを塗っている
□子どもを日光に当てないようにしている
乳幼児で、5項目のうち3項目以上当てはまったら、ビタミンD・カルシウム不足になっている可能性がある。(坂本さんの取材を元に作成)