目の前にいる人を笑顔にする仕事が、自分自身の喜びにつながっている

―― 共に働く女性の人生そのものを輝かせ、支えている仲本さんですが、ご自身もこの仕事を通じて成長し、喜びを感じていらっしゃるのではないでしょうか。

仲本 まさにそうで、私も銀行員時代は、仕事自体はやりがいはあったけれどどこかで、この仕事をしていて誰を幸せにできるのだろうという思いが残っていました。企業や人が本当に困っているときにお金を貸すということは、銀行ではなかなかできません。事業がうまくいっている人や企業に融資をすることで、銀行は成り立っているところがあるからです。それは必要なことかもしれませんが、社会にどう役に立つのか、その点において私は当時よく分からなくなってしまっていたんです。

―― 今はそうではない、と感じるのですね。そうしたお仕事の成果が、数々のスタートアップビジネス賞受賞にもつながっているのでしょう。

仲本 もちろんまだまだ改良すべき点はあるけれど、少なくとも、自分の目の前にいる人たちの生活が豊かになって、自信を取り戻せているという状況を見いだせていることが嬉しいんです。自分自身が仕事をしている、ここにいる意味があるかな、と思える。まだ規模は小さくても少なくとも、自分の目の前にいる人たちを幸せにすることはできている。そのことを実感できていることが私自身の喜びに直結しています。

「働く場所があること」が未来の紛争予防にもつながっていくと信じて

―― 先ほど多くの人が貴社で働きたいと願っているという話が出ましたが、まさにRICCI EVERYDAYのような働き方ができる場所が今後もウガンダに増えていけばいいですね。

仲本 本当に、そうなんです。私はもともと、サブサハラ・アフリカにおいて紛争を経験した地域がどのように過去を乗り越えて、紛争の再発を防げるかについて研究していました。たどり着いた答えは、一人ひとりがまず幸せになることではないか、というものでした。

 そのためには、仕事がとても重要な役割を担うことになります。アフリカでは、仕事がなく街中でたむろしているところに、政治的組織に誘われ民兵になり戦闘に駆り出されるというケースがよくあります。ウガンダ北部には元子ども兵と呼ばれる人たちがいますが、働く場所がほとんどなく、コミュニティーからも拒絶されてしまい、軍に戻る人もいるそうです。そうした状況を踏まえると、情勢が不安定な地域でこそ、雇用創出が意味を成すのではないかと思います。大きな問題になっている場所だからこそ、健全に安心して働ける場所を作り出すことで、彼らの人生の選択肢に影響を与えられるのではないかと思っています。

―― そうした大きなビジョンを持ってRICCI EVERYDAY を運営されているのですね。

仲本 弊社はまだ規模も小さく、生み出せる社会的インパクトもごくわずかです。でも一人の人が仕事を通じて幸せになったら、その人の家族が幸せになり、コミュニティーの中でそうした家族が増えてくれば、社会全体が安定して豊かになっていくのではないかというビジョンは、描き続けたいですし、自分のやっている事業を、その連鎖を生み出す原動力として位置付けています。

なかもと・ちづさん 1984年生まれ。一橋大学大学院修了後、邦銀に勤務。国際農業NGO(非政府組織)に参加し、ウガンダの首都カンパラに駐在。シングルマザーの窮状を目の当たりにし、彼女たちが安心して誇りを持って働ける場所を作ろうと、カラフルでプレイフルなアフリカ布を使用したトラベルアイテムを扱うブランド「RICCI EVERYDAY」を、日本に暮らす母と共に創業。2015年に日本法人、16年にウガンダ法人を設立。COO(最高執行責任者)を務める。 

(取材・文/玉居子泰子、撮影/品田裕美)