平均月収2~3倍の給与を。シングルマザーの生きづらさを解消したい

―― 日本での仕事はお母様に任せて、基本的に仲本さんご自身はウガンダにいらっしゃるんですね。

仲本 最近は日本でのPR活動にも力を入れたり、日本の他メーカーさんや団体さんとコラボレーションをしたり、活動の幅を広げたいと思い、2カ月ごとにウガンダと日本を行き来する生活です。工房では少しずつ人を増やしていて、私がいなくてもきちんと管理できるような体制を敷いています。

―― その多くがシングルマザーであると。日本でもシングルで子育てをするのはとても大変なことですが、ウガンダの状況はいかがですか。

仲本 田舎であれば、自給自足で食べ物には困らないし、家族や村の人たちが子どもを見てくれるということもあるかもしれませんが、逆に都市部だと食費、医療費、住居費、教育費とすべてにお金がかかります。預かってくれるナニーを雇うにもお金が要ります。時間的にも物理的にも制限がある中で、まともな職に就くのはとても難しいんです。うちと同じように縫製の会社はありますが、給料を滞納せずにきちんと払ってくれるところはほとんどないようで……。

 そんな状況をなんとか打破したくて、せめて、うちの工房では最低限の保障をつけて、給料も平均月収と言われるところの2~3倍くらいは支払うようにしています。実際、都市部で子育てをするシングルマザーの生きづらさを考えて、生活に必要な額をと思うと、これくらいはないとやっていけないんです。

好条件での採用を行うRICCI EVERYDAY。「いずれは研修体制を整えていきたい」と仲本さん(写真提供:本人)
好条件での採用を行うRICCI EVERYDAY。「いずれは研修体制を整えていきたい」と仲本さん(写真提供:本人)

経営者として大切にしているのは、スタッフの様子を「観察」すること

―― ウガンダと日本で、働き方やスタッフとの関わり方も異なりますか?

仲本 そうですね。ウガンダの人は日本や他のアジアの国と比べてペースがのんびりしているので、それほど高い生産性を求めるのが難しいというのが正直なところです。でも、私自身は、生産効率を追い求めることよりも、一緒に働いている女性たちが幸せでいることに重きを置いています。きちんと目標生産個数を達成してくれさえすれば、働き方は彼女たちが自由に選択できるようにしています。お互いの家族のことなど話をしながら楽しく仕事をしてくれているようです。以前は、近くに住んでいたスタッフが幼稚園が終わった子どもを連れてきて、工房内でみんなで面倒を見ながら仕事をしていたこともありました。

「細かい注文やプロダクトのやり直しにも、丁寧に応えてくれるスタッフに信頼を置いています」(仲本さん)(写真提供:本人)
「細かい注文やプロダクトのやり直しにも、丁寧に応えてくれるスタッフに信頼を置いています」(仲本さん)(写真提供:本人)

―― 皆さん仲がいいんですね。スタッフとのトラブルも、これまでなかったのですか?

仲本 大きなものはありません。ただ、人材の育成やマネジメントは難しいなと感じることはありますね。例を挙げると、あるとき、一番長く働いてくれるスタッフがイライラしていたんです。彼女はもともと感情のアップダウンが激しい性格で、でもそうなると周りにも影響が出るし、集中力が下がって作業効率も下がります。どうしたのかと聞いても答えてくれなくて。そこで周りのスタッフに聞いてみたら、実は別れた夫が教育費を払ってくれなくて、そのために朝から銀行を駆けずり回って授業料を工面して支払ったということが分かりました。そういう話を聞いたときに、やはり、日ごろからもっとみんなのことを観察して、話をして、小さな変化に気付くことが経営者として大切なのだと気付きました。

―― そうした個人のプライベートのトラブルに経営者としてどう対応しているのですか?

仲本 不安や心配には様々な原因がありますが、お金の問題や子どもの健康状態の不安には、会社としてサポートできるところはしたいと思っています。本当に現金が必要で困ったときには、無利子で貸し付け、給与から少しずつ天引きする制度を設けたり、医療費も上限額はありますが、保障システムを整えたりしています。ウガンダではこうした保障制度は社会的弱者の手の届かないところにあり、やはり会社として支援することは必要だと思っています。