8万7600回・・・これは何を表した数字だと思いますか? 答えは、人が仮に80歳まで生きるとしたときに、一生の間にいただく食事の回数です。こうして実際の数字として見ると、意外と少ないと感じる方もいるのではないでしょうか。さらに、このなかで小学生が給食として食事をする回数は、1年間でおよそ190回、6年間で1140回程度。もちろん学校によってばらつきはありますし、給食のない学校に通うお子さんはこの通りではありませんが、数字上はこうなります。つまり1140/87600回は、給食というわけです。この数字を踏まえたうえで、昨年秋に神奈川県内の小学校でスタートした、興味深い取り組みについてご紹介したいと思います。

きっかけは「フードロスを何とかしたい!」という想い

 昨年、ニュースでも話題になった大量廃棄など、給食に関する問題。私たちが忘れてはならないことは、その一食一食が成長期の子どもたちの血肉となる、大切な栄養源であると同時に、「食」に対する意識や価値観を養い、ひいては「食」を通して「命」そのものに向き合う大切な時間だということです。

 そんななか、神奈川県で給食にまつわる非常に興味深い取り組みが始まりました。中心となるメンバーは、「一般社団法人 日本スローフード協会」の三浦半島支部の有志たち。10名ほどで構成されるメンバーの大半は、小さな子どもを持つ父親・母親でもあります。メンバーの一人、日本スローフード協会理事・一般社団法人そっか共同代表の小野寺愛さんと、彼らの想いに賛同する横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校の栄養士、望月佐知先生にお話を伺いました。

 「事の始まりは、有機野菜を専門とした流通業を営む方のあるひと言でした。ご自身のお店の人参だけでも、毎週100kgから200kgの廃棄野菜が出ると。そしてこれはどの流通業者でも同じなのではという話を聞き、メンバーたちと何とかしたいということになりました」(小野寺さん)

 野菜が廃棄される(=フードロス)理由のほとんどが、大き過ぎる、小さ過ぎる、虫食い、ひび割れなど、いわゆる規格外であること。おいしさや鮮度にはなんら遜色がないのに、見た目が悪いだけで廃棄されてしまいます。しかしながらここ数年、フードロスについて何とかしたいと考えている人が増加していることも事実です。

 現に小野寺さんたちも、スローフードの活動をする仲間たちに声をかけ、知り合いの飲食店など、自分たちがさばける範囲内で買い取りしてもらえばいいと考えていたそうです。そんな矢先、メンバーから、あるアイデアが提案されたといいます。

捨てられてしまう野菜はすべてオーガニックです。ならばそれに価値をつけより多くの人たちに買い取ってもらい、そのお金で基金を作ろうというものでした。基金にプールしたお金で、子ども食堂への野菜の無償提供や、小学校給食へのオーガニック野菜の寄付をしようということになりました」(小野寺さん)

 熱意あるメンバーたちは、その野菜を『もったいない野菜』と、基金を『もったいない野菜基金』と名付け、すぐに試験的運用を開始しました。

 「安くオーガニックが買えるから利用したい、ではなくて、食を介して持続可能な世界に働きかけたい。そんな意思のある仲間を募ることから始めました。それには、生産の現場を知り、応援する気持ちが大切。どんな形の野菜が来ても、毎週20kgを上限とした買取の確約をしようなど、おのずとルールも定まっていきました」(小野寺さん)

 現時点では、鎌倉、逗子、葉山、三浦地域の飲食店などを中心に、広がりつつあるそうです。この活動を聞いた望月さんは、学校給食でも「もったいない野菜」を使用することができたら、子どもたちに生きた教材としてフードロスのことや「もったいない」という気持ちを伝えられるのではないかと考え、スローフード協会のメンバーと準備を始めました。

学校給食でも「もったいない野菜」を使用することができたら、子どもたちに生きた教材としてフードロスのことや「もったいない」という気持ちを伝えられるのではないかと、取り組みが始まった
学校給食でも「もったいない野菜」を使用することができたら、子どもたちに生きた教材としてフードロスのことや「もったいない」という気持ちを伝えられるのではないかと、取り組みが始まった