「2000人が働く場所」を作ることへの責任

 ブランディングの対象は商業施設、ホテル、化粧品、食品、レストラン、シニアの施設など、本当にさまざまです。中でも、商業施設「グランツリー武蔵小杉」は土地探しの時点から関わりました。きっかけは、クライアントの会長さんからこう言われたことです。

 「日本の未来はまだまだ捨てたものじゃない、子どもに伸び伸びとよい教育を与えたい。家族がそんなふうに思えるような、未来と愛のある商業施設を作りたい。けれど、社内にそれができる人材をそろえられなかった。柴田さんにはその力があると思うから、全部のフロアをお任せしたら、あなたは張り切ってやってくれますか?」と。

 私は経営者の言葉や立ち居振る舞いに日々触れていますが、こんなふうに言われたら、すごくやる気が出ますよね。新しい商業施設の屋上から「柴田さん、僕はこういうものが作りたかったんだ」と会長に言ってもらえる日まで、仕事が10倍になっても絶対に頑張ろうねとみんなで話して、プロジェクトに着手したのを今でも覚えています。

 そして、私が一番気になったのは、ここで何人の人が働くのかということ。グランツリーでは2000人が働いています。私にとって、仕事は自分の人生において一番大切なものですから、その2000人が1日の多くを過ごす場所を作ることに対する責任がある。お客様にどう接するか、働く方にどう成長してほしいかという教育研修も、2000人に対して自らやりました。

多くの要素が絡み合うなかで「自分らしいやり方」を探す

 最近では、ボディアーキというエステサロンも立ち上げました。ネクシィーズの近藤さんという社長から、「自分の後輩が素晴らしい器械を生み出したので、それをみんなに使ってもらえる通い放題のエステを作りたい。店や場所はどうしたらいいか、コンセプト、料金体系、会員集め、事業計画からすべてを手伝ってほしい」と言われました。さすがにこれは大変だろうなぁと最初は逃げていたのですが(笑)、やりきったら自分もチームも成長するだろう、これも運命だと思ってお受けしました。おかげさまで、最大会員数を7カ月で達成するという計画が、2カ月で満員になる勢いで進んでいます。

 パレスホテルさんも大きな仕事でした。それまでホテルの仕事をやったことがなく、社長には「星が付くホテルの仕事ができるのか」と、私たちの起用を1年半にわたり反対されたのだそうですが、今は家族のように仲良くしていただいています。そんなふうに、クライアントさんと信頼関係が構築できることも私の喜びです。

 仕事というのは、お金やスケジュール、相手と自分の利害も絡みます。多くの要素があるなかで、自分らしくとはどういうことか、人として正しいやり方はどういうことかを訓練していく場だと思います。また、親切とは、優しさとは何か。許すことや信頼すること。人として大事なことを、仕事を通じて学び、人間的に成長することができたらと思っています。

ブランディングという仕事への思いを語る柴田陽子さん
ブランディングという仕事への思いを語る柴田陽子さん