産後ホッとする間もなく始まるのが赤ちゃんへのワクチン接種です。定期接種の種類は年々増えていて、3歳までに受けるワクチンは8種類もあります。予約当日に発熱して受けられなかったり、スケジューリングに苦労した人も多いのではないでしょうか。職場復帰すると、仕事の都合でなかなか予防接種を受けさせられないという声もよく聞きます。肺炎球菌ワクチンを製造しているファイザー株式会社の調査によると、肺炎球菌ワクチンの初回接種を実施した人が97.8%いるのに対して、2歳までに追加接種を完了した人は87.2%までに下がってしまうのだそう。そこで同社では「ワクチン接種 最後を忘れちゃ、もったいない」という啓発キャンペーンを展開し、ワクチンの接種漏れに注意を呼び掛けています。だいすけお兄さんのポスターを見たことがある人もいるかもしれませんね。「追加接種」が大切な理由や、ワクチンの種類が増えている背景について、小児の予防接種に詳しい小児科医にお話を聞きました。
お話/峯 眞人
峯小児科院長
彩の国予防接種推進協議会会長
日本大学医学部卒業後、日本大学板橋病院小児科にて研修。埼玉県小児医療センター未熟児新生児科を経て現職。SIDS家族の会医学アドバイザー。岩槻区内保育園医。岩槻医師会前会長。

ワクチンギャップが埋まり、予防接種の種類が増えてきている

 今回教えてくださった峯 眞人先生は、埼玉県の「彩の国予防接種推進協議会」会長として、日本と海外のワクチンギャップ解消に尽力してきた小児科医です。「ワクチンギャップ」というのは、国や地域によって特定のワクチンの接種ができたり、できなかったりなどの差があることです。日本は実はワクチンに関しては「後進国」。欧米諸国では定期接種扱いになっているワクチンも、つい最近まで定期接種ではありませんでした。

 「ここ数年で、諸外国に追いついてきていて、インフルエンザb型(ヒブ)や肺炎球菌、水痘(水ぼうそう)、B型肝炎などのワクチンもようやく定期接種になりました。おたふくかぜやロタウイルスはまだ任意接種ですが、今後、定期接種に組み込まれていくべきでしょう」(峯先生)

 「現在、標準とされている予防接種のスケジュールでは、生後2カ月のヒブと肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルスからワクチン接種が始まります。まだ首も据わらないくらい小さいのに何度も痛い思いをさせてかわいそうとか、かかる人が少ない病気なのになぜワクチン接種をしなければならないのかと思うかもしれませんね」(峯先生)

 確かに、周囲でかかった人がいない病気に関しては、接種の重要性をあまり感じないかもしれません。しかし峯先生はこのように話します。「世界中から完全にその病原体がなくなるまでは、やり続けるのがワクチン接種の大原則です。ワクチン接種が広まることにより、特定の病気は身の回りからはなくなり、“見えないもの”になります。するとそれによってワクチン接種の重要性が感じられなくなったり、副反応のほうが気になってきてしまう。しかし、病気が“見えないもの”になっているのは、皆がワクチンを接種し続けているからです

予防接種によって、はしかにかかる人が激減

 麻しんもその一つです。「はしかのよう」という言い回し(誰もが一度は体験するという意味合い)があるように、以前は日本では多くの人がかかる病気でした。しかし、麻しんは決して軽く見ていい病気ではありません。感染力が強く、高熱や発疹が出て、中には脳炎や肺炎になる人や死亡してしまう人もいるくらい恐ろしい病気です。峯先生たちのグループが行った調査では、2000年に麻しんで入院した人は全国でおよそ1万人いたと推測されています。入院するくらい重症な人が1万人もいたのですから、麻しんにかかった人は十数万人いたと考えられます。

 その後麻しんは2006年から1歳児と小学校入学前の2回のワクチン接種制度が始まり、2008年から5年間は、中学1年生と高校3年生相当年齢の人に2回目のワクチンが定期接種として導入されました。その結果、2017年に麻しんにかかった人の報告数は200人以下まで減っています(国立感染症研究所調査)。
「これも予防接種が普及している成果でしょう」(峯先生)

 峯先生は「ワクチンには接種することでほとんど完全に病気を予防できるものと、かかってしまうかもしれないけれど重症化を防ぐものがあります」とも言います。「四種混合ワクチンの百日咳以外の病気とヒブ、肺炎球菌、B型肝炎はワクチンを打てばほとんど予防できます。任意接種のロタウイルス、インフルエンザは接種しても絶対にかからないというわけではなく、かかってしまうかもしれないけれど、重症化は防げるというものです。ワクチンの性質を理解して接種を検討してほしいですね」