「食育」というと、どんなイメージがありますか? 健康につながる栄養の知識、食事にまつわる知識や食べ方のマナーなど、子どもに伝えていきたい大切なことですね。とはいえ、日々の仕事・家事・育児に忙しいデュアル読者。ただでさえ「晩ごはんの支度って毎日大変!」と感じている中で、実際にはいつ、どうやって食育したらいいの?と感じている人も多いのではないでしょうか。
食を通じて命の大切さを子どもに伝えるなら、まずは親自身が、「食べ物は命」であることが身に染みていることが大切かもしれません。そして、「食べ物は命」を実感することは食事のマナーにも関係しています。このことを実感できるワークショップに、自身も子どものご飯作りや食育で悩んだ体験のあるデュアルライターが参加。お寺を舞台に料理をしたり、漆器で食事をするというユニークなワークショップの様子をルポします。
器をまず選ぶことから始まったワークショップ
「私の器を育む~命を感じる食のワークショップ」のファシリテーターはバースセラピストの志村季世恵さん。志村さんは、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(照度ゼロの真っ暗闇で、視覚以外の感覚を使って楽しむエンターテインメント)のコンテンツを考案したり、大人から子どもまで「命について考える」ワークショップを数多く主催してきました。今回のワークショップでは、屋外での料理体験で上質な漆器を使うという予想外の組み合わせを展開しています。
ワークショップが開催されたのは、静岡県田方郡函南町にある長光寺。山の木々に囲まれた静かで明るい禅寺です。寒くさえわたった朝日の中、長光寺住職、柿沼忍昭和尚が鳴らす鐘の音で参加者は本堂に集まりました。
本堂には、この日参加者が使う漆器、「めぐる」が並んでいます。「めぐる」は会津漆器の職人たちと、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンド(視覚障がい者が務める)が共同開発した器です。手や唇の繊細な触感に優れた視覚障がい者のアドバイスによって、漆器本来の触り心地がさらに生かされるデザインであり、希少で上質な国産漆のよさも生かされているなど、こだわり抜いた漆器。自然の恵みと作り手によって丁寧に生み出された器を使うことが、このワークショップのキーとなります。
この日、集まったのは20人の大人と子ども 1人。2~3人連れだっての参加もありましたが、ほとんどがお互いに知らない人同士です。女性がほとんどですが、男性も数人参加。世代は40代を中心に、小学生から60代まで。子育て経験者がある人もそうでない人もいて、職業も住んでいる地域も様々とバラエティーに富んでいます。参加者は全員、この日に使う器を一組ずつ選びました。
参加者はそれぞれの器を持ち、柿沼和尚から食事をする器について講話を聴き、その後はしばらく静かに座禅する時間を持ちました。そして、ファシリテーターの志村季世恵さんの合図で目を開けたところから、ワークショップの本編がスタートしました。
「まずは、ご自分の器を触ってみてください。今日は、器を使って、自分の器を育てる時間にしましょう。私たちの体は、器です。心や内臓、色々なものが入っています。この中に、何を入れてあげましょうか。器を触りながら、最近の自分に必要なものを考えてみましょう。どんな気持ちで、どんなものを口に入れたいかな、としばらく考えてみてください」
「それは、『おにぎり』とか『とんかつ』とかの料理名ではないものにしてほしいのです。ちょっとおしゃれなカフェのメニューみたいに、『心ポカポカになるおひさまのにおいがする○○』といったキャッチフレーズのほうを中心に考えてみてください」
参加者はそれぞれ思い浮かんだイメージを紙に書いた後、志村さんからの声掛けで、4~5人一組のチームに分かれ、各チーム1つのオーダーをまとめることになりました。自分が食べたいものと、一緒にいる人が食べたいものの共通点を話し合いながらすり合わせるのです。この日は寒かったので、「温まるもの」ということは共通項として決まりやすかったのですが、それが「ワクワクする」なのか「ほっとする」なのか、自分の願いと相手の願いを合わせて、チームとしてはどういうものが食べたいのかを決めていきました。
チームごとに出た、お料理の案たちは、こんな具合でした。各チームの代表が発表します。
【ホッとひと息、里芋ベースのスープ いろどり野菜たっぷり おむすびそえて】
【心も身体もホクホクになるパンクなごはん】
【おもゆっぽいおしるこ ほんのり甘い お米野菜入り】
【じんわり透き通る青菜とサツマイモのあったかおかゆ】
【頭の中がお花畑になる甘いやわらかいおやつ】