「社会の流れだから」と言いやすくなる

 発表があってから、育児世代のたくさんの男性たちと話しましたが、皆さん喜んでいました。特に官僚の友人や大企業に勤める男性たちは、社会の空気が変わる、感謝する、ブログ書くよ! と盛り上がっていました。

 企業の人事担当の方との会合で議論もしましたが、歓迎ムードです。企業の人事は働き方改革を一生懸命進めていますが、いくら人事が「帰れ休め」の大号令をかけても、男性社員自身に「帰りたい」という内的欲求がないと、生産性を上げよう、働き方を変えようとは思わないそうです。産後に育児に関わらないことで、家族との絆が切れ、もはや早く帰りたいと思わなくなってしまう。それがいかに生産性向上にとってマイナスか、企業も分かってきたのです。大臣が育休取得を発信してくれたことで、「社内の空気作りがラクになる」「働き方改革は社会の流れだと堂々と言える」と、歓迎する声が聞かれました。

属人化でなく「仕組み」で解決

 ご本人のブログにもあったように、一般男性が育休取得にあたって葛藤するプロセスを、小泉大臣も通ったことと思います。子どもを授かったタイミングと、責任ある立場への昇進とが重なり、相当悩んだことでしょう。

 しかし他国では首相が育休を取った例もあるわけです。ではその国にはどんな「仕組み」があるのか? 例えば、諸外国には、議員が育休をとったら、比例代表で落選した中から一番得票数が多かった議員が代理を務めるという仕組みがあります。業務を属人化させず、代替するための「仕組み」で解決する。こうした代替の仕組みは、日本のように災害が多い国であれば、本来整えておかなければいけなかったはずです。一人が休むくらいでこれほど大騒ぎしていることが、国際的に見ればどれほど恥ずかしいか、知るべきでしょう。

 365日、24時間健康であることを前提としたシステムを、国会をはじめ民間企業に押しつけられているからみんな休めず、台風でもインフルエンザでも無理して出社してしまうのです。育休取得への批判はお門違いです。人に極度に依存せず、仕組みで解決して、チーム内の美しいパス回しでアウトプットのクオリティを担保していく。ラグビーを見ても分かるように、日本人はそうした連携が上手なはず。2020年、令和の日本は、もうこうした体制に切り替えなくてはいけません。

取材・文/久保田智美(日経DUAL編集部)



小室淑恵
ワーク・ライフバランス代表取締役社長
小室淑恵 06年にワーク・ライフバランスを設立。多数の企業・自治体などに働き方改革コンサルティングを提供し、残業削減と業績向上の両立、従業員出生率の向上など多くの成果を出す。講演依頼は全国から年200回以上。内閣府「子ども・子育て会議委員」、経済産業省「産業構造審議会委員」、厚生労働省「社会保障審議会年金部会委員」、「一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問会議顧問」など複数の公務を兼任。近著に『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)など。二児の母。