子育てにスタンダードはないと気づいたら楽になった

―― 娘さんが障害を抱えていることは自然に受け入れられたのでしょうか?

谷山 実は、娘が小さいころは「なぜうちの子が障害を抱えないといけないのだろう」という思いが3歳くらいまではありました。自分で歩くことができないので、オムツを替えたり、お風呂や食事も介助したりすることは一生続きます。散歩をしていて、走っていく他の子どもを見るのがつらい時期もありましたよ。

 でも、徐々に子どもが教えてくれる数々のことによって意識が変わってきました。特に小学生になり、障害児学級の他の家族や、障害を持った子の親の地域サークルなどで仲間が増えたことでとても気持ちが楽になりました。悩みを共有したり、必要なときには子どもを預かって見てくれたりする関係ができたんです。障害を持っている子どもの介護をよく知っているからこそ預け合うこともできます。それに、さまざまな障害を抱えた子どもやその家族と交流していくうちに、「娘も私たちもありのままでいいんだ」と自然に思えるようになったんです。いろんな条件を持った子、いろんな背景がある家庭があり、それぞれのカタチがある。障害があるないだけでなく、子育てにスタンダードはないんですよね。

―― 娘さんに気づかされたこととはどんなことでしょうか?

谷山 普通に生活をしていると、不自由さに気づかないですよね。同じように子どもの目線にも気づかない。僕もせかせか歩くほうでした。

 でも、車椅子に座っているとちょっとした振動でも体に大きく伝わって、痛みを感じることがあるようなんです。ゆっくり押さないといけないし、段差などがあると遠回りをしないといけないこともある。

 だからこそ、車椅子の子どものペースでゆっくり移動しながら景色を見ていると、道路の横の花に気づくんです。外の景色にすごく興味を持ってくれるようなので、週末は2時間くらいかけて僕が散歩に連れて行きます。電車を見たり、植物を見たりしながら歩き、二人でデニーズなんかに行って昼ごはんを食べて帰ってくるんです。そうすると、妻にも休息の時間をあげられるし、僕も娘もいい気分転換になる。

 話すことはできないのですが、絵のカードを選ぶことで意思表示ができるので、好きな場所を見つけたり、彼女の笑顔を見れたりするとすごくうれしい。

 実は、毎年年賀状は娘の写真なんですが、年末になると妻と僕でどっちがいい写真を撮れたか見せ合って選ぶんです。去年のは僕が撮った写真になったんですが、そうやって僕だからこそ撮れた娘の笑顔を引き出せたことが、何よりうれしいですよね

 それに車椅子を押していると、声をかけてくれたり手伝ってくれたりする人も増えてきました。子どもを通して人の優しさに触れられるようになったことに感謝しています

子育てと仕事ストレスで眠れない日々からの脱却

―― 今、お仕事以外の時間は娘さんに合わせた生活をされているそうですが、気分転換はどうしていますか?

谷山 子どもが生まれたころからジムに通い始め、今は24時間ジムに入っているんです。

―― 24時間ジム! 子育ての体力づくりですか?

谷山 実は子どもが生まれる前、30代後半くらいから体力の低下を感じ始めるようになっていました。すごく運動していたほうでもないのですが、30くらいまでは徹夜も平気なタイプだったんです。それが、30後半で疲れがひどくなり、特にストレス耐性が落ちたのを感じました。仕事のストレスで食欲も落ち、眠れなくなり、潰瘍までできたんです。

 子どもの育児以前に自分が倒れては家族に迷惑が掛かると思い、「このままでは自分がダメになるから、ジムに行かせてほしい」と妻を説得しました。子どもが生まれて大変な時期に、妻にしてみれば「こんな大変なときになぜ?!」と思ったでしょうが、話し合って理解してもらいました。

 それ以来、今は最低でも週5日はジムに行っています。行かないと、ストレスで眠れないんです。夜8時すぎに娘が寝たらジムに行き、1時間程度汗をかいて、肉体を酷使して疲れて寝る。それが、結果的に僕の安定を保ってくれてるんですね。

 もちろん妻もゆっくり話を聞いてほしいときもあると思うので、あまりジムに長居せず、時々は早く帰るようにしてますけど(笑)。僕がジムに行っている間、妻は一人晩酌を楽しんでいるようです。

―― 共働きだと日々忙しいと思いますが、家事や育児で工夫していることがありますか?

谷山 効率化を心がけていますね。家事も育児も妻のほうが負担は多くなってしまっていると思いますが、食事も妻は丁寧に食べさせているようですけれども、僕はちょっと早めのリズム感で娘が飽きる前に終わるようにしています。また、お風呂は入った後に掃除をそのままして壁を拭いてカビも防ぐ。

 実は僕、子どもが生まれる前は極度の潔癖症だったんですよ。人が触ったドアノブとかつり革とかも触れないくらい。だから、娘のオムツを替えてウンチが初めて手についたときの衝撃は今でも覚えています。頭が真っ白になって「うわー!!」と逃げ出したい衝動に(笑)。

 でももちろんオムツ替え中の子どもを置いて逃げることなんてできないですよね。おかげで今では潔癖症もかなりなくなり、オムツ替えもすっかり平気になりました。

 他にも家事はトイレ掃除もしますし、調理道具も料理をしたら食べる前に洗っちゃいます。洗濯は回すのは得意ですが、畳むのは苦手ですね(笑)。

 育児については、朝は着替えや食事の介助を僕が担当したり、帰りも交代で迎えに行くようにしたりしています。僕が迎えに行く日は夕飯からお風呂、食後のマッサージ、ストレッチをさせてあげるところまですべてやり、その日は妻は子どもが寝た後9時ごろに帰ってきますね。妻のお迎えのときはその反対ですが、なるべく早めに帰れるようには心がけています。