何かを変えたければ、等身大の自分をさらけ出すことが大事

 日々に不満はないけれど、漠とした不安を抱いていた19歳のとき、大学を1年間休学して、アジア・アフリカ20カ国の地域開発の現場を巡った岩本さん。日本よりも貧しい国々でたくさんの社会課題を目の当たりにし、自分自身が大きく変わっていくのを実感しました。このときの学びが後の「越境学習」へとつながっていくのですが、 たった1年場所を変えたことで、自分の意識や行動が変わり、内的幸福度も満たされるようになったといいます。

  「人は学びを通して成長し、幸せになれる。それが、社会貢献につながる」。そう確信した岩本さんは、自分の人生を教育に捧げる決意をしました。 同じく税所さんも海外で得たものは大きかったと、破天荒な20代を振り返ります。

 一方、清水さんは「場所ではなく人に心を動かされた」と話します。清水さんが通っていた私立中高一貫校では、中2のときに自分が興味を持ったことについて調べるリポートがありました。ゆとり教育の第一世代だった清水さんは、自分たちが望んだことではないのに、ゆとり世代を批判する世の中に不満を持ち、「日本の教育問題を考える」をテーマに、文部科学省や著名な教育学者など、100人以上を取材します。そのときに、中学生を相手に大人が真剣に対応してくれたことに心を揺さぶられます。

  何も行動せず、世の中の不満ばかりを言っていても始まらない。何かを変えたければ、自分で行動しなければいけない。こうして3人は、それぞれの思いを抱いて、教育開拓の道へと進むのです。

 とはいえ、何か新しいことに挑戦をするときは、さまざまな壁にぶつかります。今でこそ知名度が高まってきた「しまね留学」ですが、その先駆けとなった“島の学校”隠岐島前高校の改革に、岩本さんが乗り出したのは2007年のこと。当時、岩本さんは勤めていた大手企業を退職し、強い意志を持って、島に上陸します。

 高校の魅力化を目的に朝から晩まで働きかけているのに、肝心の高校に足を踏み入れることができない。島の人たちからよそ者扱いをされる。最初の1、2年はつらい日々が続いたという岩本さん。自分に権限がない中で、新しいことを提案していく難しさを痛感します。しかし、その一方で、これこそがこれからのグローバル社会に必要な経験と考え、前向きに捉えます。

 「生活環境や文化が違う人たちと一緒に何かをするには、正論を述べるのではなく、等身大の自分をさらけ出すことが大事だと感じました。分からないことは素直に分からないと言い、弱い自分も見せる。僕たちはそれを『心のパンツを脱ごう!』(略してTPO=Take Pants Off)と呼んでいます」(岩本さん)

 学生時代に都内に学習塾を設立した清水さんは、6年前から青森県三戸町の教育委員会で学習アドバイザーとして携わっています。清水さんも当初は、自分よりもはるかに年上の方を前に、教育について語ることに不安を感じていたそうです。でも、自分が良いと思うことは伝え、逆に教えてほしいことは素直に聞くようにしました。そうするうちに信頼関係が築かれ、「みんなで良くしていこう」という姿勢になりました。

 「教育は一人では変えられません。そして、すぐには変わりません。教員や保護者、地域が一体となって動かなければ、大きく変えることはできないのです」と、チームの大切さを語る岩本さん。でも、一度手応えを感じると、どんどんやる気に満ちてくる。教育にはそんな魅力があると、3人はうなずきます。