全身の保湿ケアをしっかり。アトピーの発症リスクが3割減

 では、こうした乾燥肌の赤ちゃんに対してはどんなケアをしたらいいのでしょう。

 それは「とにかく全身の保湿ケアをしっかり行うことに尽きる」と大矢さんは言います。大矢さんたちの研究グループでは、赤ちゃんの全身に1日1回以上、保湿剤を塗るスキンケアを生後1週間以内に開始し32週まで続けたところ、アトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下しました(グラフ2)。

 【グラフ2】 保湿剤の塗布とアトピー性皮膚炎発症率との関係
 【グラフ2】 保湿剤の塗布とアトピー性皮膚炎発症率との関係
1日1回以上、全身に保湿剤を塗った群と塗らなかった群に分け、生後32週までのアトピー性皮膚炎の発症率を観察すると塗った群のほうが塗らなかった群よりアトピーの発症率は3割以上低下した(大矢さんらの研究から。Journal of Allergy & Clinical Immunology(11.248)Vol.134,Issue 4,October 2014.を参考に作成)

 「乾燥肌の赤ちゃんに保湿剤をしっかり塗ると、絶大な予防効果があることが分かりました。生後1カ月くらいでアトピー性皮膚炎を発症する赤ちゃんもいるので、新生児期(1カ月未満)から始めることが大切です」(大矢さん)。保湿ケアを継続する有効期間については研究中ですが、アトピー性皮膚炎を発症しやすい時期は、生後2~3カ月と1歳半から2~3歳の2つのピークがあるため、2つ目のピークが過ぎる3歳ごろまで保湿ケアを続けると安心です。

 おすすめの方法は1日2回、皮膚の汚れをきれいに洗って落としてから全身に保湿剤を塗ること。日本の皮膚科医や薬剤師が行った他の研究でも、保湿剤の塗布は1回より2回のほうが皮膚のバリア機能がよくなるという結果が出ています。しかし、「2回と3回の差はそれほど大きくはないので、日常生活に無理なく取り入れるのなら1日2回行うのがよいでしょう」と大矢さんは言います。タイミングは「いつでもいいですが、朝と夜の着替えのタイミングで保湿ケアをするのが取り組みやすいです。また、保湿剤を比較したデータはないため、どの保湿剤が最もよいということは言えません。私たちの研究では赤ちゃん専用に作られたポンプ式の敏感肌用ローションを使いました」と大矢さん。

 保湿ケアで大切なのは乾燥している部分だけに保湿剤を塗るのではなく、「全身を保湿する」こと。アトピーが出やすい部分の皮膚だけに保湿剤を塗った研究では期待する予防効果が出ておらず、皮膚のバリア機能を高めるためには、部分的にではなく全身にしっかり保湿剤を塗るほうがよいでしょう。「脂漏性皮膚炎でジュクジュクしている部分もきれいに洗ってから保湿剤を塗りましょう」(大矢さん)

保湿剤は塗り込まず、肌に膜を作るように

 塗り方のポイントは、肌にゴシゴシすり込まないこと。すり込んでしまうと、保湿剤が皮膚の中に浸透せず、効果が期待できません。「皮膚を薄い膜で覆うようなつもりで、均一に優しく塗り広げていきます。保湿剤を塗ったところにティッシュを1枚置いたとき、それが肌にくっつく程度のベタベタ感になるように保湿剤はやや多めに塗るのがコツです」(大矢さん)

 量の目安は、人差し指の先から第1関節までチューブの薬を絞り出したときの量を1単位と考えます。この量をグラムに換算すると、25~50gのチューブの場合は約0.5gになります。ローションの場合は1円玉大の量が約0.5gに相当します。この量で手のひら2つ分の面積を目安に、保湿剤を塗り広げるのが適切量(下図)。先に紹介したように、少し肌にべたつきが残る程度です。

保湿剤の目安量
保湿剤の目安量
チューブの場合は人差し指の先から第1関節まで薬を絞り出したときの量を、ローションの場合は1円玉大の量を、手のひら2つ分の面積を目安に保湿剤を塗る。保湿剤は肌表面に薄い膜を作るように、すり込まずに塗る