いざというときの取り決めをメモにして保管しておく

 夫婦の毎日のコミュニケーションが大切な理由は大きく2つあります。

●連絡が取れなくなっても、お互いの行動パターンが想像しやすい
●災害時のルールを、きちんと共有できる

 例えば上記のケースの場合、もし夫婦でこのような取り決めをしていたら、どうなっていたでしょうか。

1. 夫は職場が離れているので、仕事中であればそのまま職場にとどまる。必要であれば3日間までは連絡なしで職場に泊まる(何日間にするかはそれぞれの夫婦間で取り決める)。

2. その3日間は、妻は自宅にいなくてもいい。安全で、単独行動にならない場所(例えば避難所など)へ移動する。

3. 夫が帰宅した際、すぐに妻と落ち合えるよう、妻が移動先として考えられる場所をすべて伝えておく(メモに書き出して、お守りとして共有する)。

 これだけで、被災直後、とっさの判断を強いられるとき、メモ書きを見て冷静に行動できるかもしれません。短時間で再会できる確率も、ぐっと上がります。

 何より、精神的に追い詰められる前に、自分自身で安全に行動が起こせます。

 このような夫婦間の取り決めは、どのご家庭もすぐに取りかかってほしいことですが、それよりも簡単にできることもあります。それは、日々の生活の中で「お互いを知る」会話をしておくことです。

 例えば、以下のような項目を普段から話し合えていますか?

「職場で仲のよい同僚・後輩・上司の名前」
「子ども同士が仲のよい友達、学校の交友関係」
「今日、お互いがどこで何をしているか」
「出張先はどこなのか」
「ママ友・パパ友との関係性」

 こうしたことを共有できていれば、急に連絡が取り合えなくなったとしても、お互いの行動範囲が想像しやすいはずです。

 別の体験談では、夫が時間を空けて帰宅した際、自宅に誰もおらず、近所の避難所を数カ所探し回った揚げ句、全く手掛かりがつかめずに途方に暮れたという話がありました。実は、その妻と子どもがいたのは自宅から至近距離にある、仲のよい高齢者の方の家でした。しかし、夫はその人と妻や子どもが親しいことを全く知らず、その人の家の前を何度も行き来していたそうです。

 普段から、お互いの日常や行動を共有することは、いざというときの想像力にも影響するわけです。

 詳しくは次回以降で触れますが、子どもとのやり取りでも同様のことが言えます。「今日何があった?」「今日はこんなところに行くよ」「最近こんなことがあってね」といった何気ない日常会話が、思いもよらない危機を救うかもしれないのです。

 もし、最近会話が少なくなってきたな……と感じているようなら、まずは日々のコミュニケーションを大切にすることから始めてみてはどうでしょうか。

(イメージカット/鈴木愛子)

冨川万美
NPO法人ママプラグ理事 アクティブ防災事業代表
冨川万美 青山学院大学卒業後、大手旅行会社、PR会社を経て、出産を機にフリーランスに転向。東日本大震災で被災母子支援を行って以降、防災事業を中心としたNPO法人ママプラグ設立に携わる。二児の母。東京都のプロジェクト「東京くらし防災」編集検討委員。『子連れ防災手帖』『子連れ防災実践ノート』などの防災本の執筆も手掛ける。