「生活」を守るために「わが家ならでは」の目線が必要

 そして、2.の家族全体の個性も洗い出していきます。

 マンション住まいか戸建てか、周囲は密集した住宅地かそうでないか、ペットを何匹も飼っていたり、子だくさんだったりするご家庭もあるでしょう。ご家庭ごとに、いざというときにどう対処したらいいのか、全く違ってくるはずです。

 この話をすると、よく「災害時にそんなこと言っていられないでしょう? 我慢するしかない。自分のことなんて二の次です」と言われることがあります。

 しかし、本当にそうでしょうか。私たちは数多くの体験をお聞きする中で、防災を考える上では「命を守ること」と同じくらい「生活を守ること」が大事だと気付かされました。実際、過去の災害では、命が助かった数多くの人が、その後の生活の苦しさで命を自ら絶ってしまったり、心を塞いでしまったりした人も少なくありませんでした。その原因は「これまでの自分の生活が失われたこと」によるものばかりです。

 被災した直後は、命があることに感謝し、それ以外はすべて我慢できるように思えるかもしれません。しかし、1カ月以上も電気・ガス・水道が止まり、仕事がなくなり、学校へ行けない、と言った生活が続くとしたらどうでしょう。

 ふだんコンタクトの人が、メガネもなくて何も見えない日が続く。仲間たちと楽しくお酒を飲むことが息抜きだった人が、急に全く飲めなくなる。自分へのご褒美に甘いものを食べることが小さな幸せだった人が、全く食べられなくなる。勉強をした合間に、大好きなアイドルの動画を見ることが日課だった子が、見られなくなる。

 今挙げたことはほんの一部にすぎませんが、ほとんどの人がこのような「自分だけの」息抜き方法や習慣があるはずなのです。それを一瞬にして奪われることが、どういうことかを想像してみてください。

 災害は一瞬ですが、被害は長期にわたります。だからこそ、生活を守るための防災が必須なのです。そして、生活を守るための防災には、必ずわが家ならではの目線が必要です。

 ぜひ家族で話し合って、「わが家の一人ひとりに必要なモノ」と「わが家ならではのルールや役割分担」を考えてみてください。オーダーメードで防災を進めていくことによって、災害が起こった直後に、お店からモノが一斉になくなることがなくなります。避難所で、アレルギーの子どもたちが食べられるものがないという事態が防げます。

 防災は、そう難しいものではありません。まずは自分自身を見直してみること、そして家族一人ひとりの個性を大切にすること。考えるときの最初のとっかかりは、これだけです。

 今年も、すでに大きな災害がいくつか起きています。日本に住む全国民が、家族の健康を気遣うように、多様性を大切にするように、防災についても考えてもらえたらと願っています。

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