防災食を備えることと同程度に、「温められる機材」は大事

 そして、(2)の「常温保存でき、加熱または加水してから食べられるもの」ですが、こちらは比較的バリエーションも多く、食べやすいものが多いです。レトルト食品は、普段から食べている人もいるでしょうし、おいしいものが少なくありません。

 さらに、温かかったり、汁気が多かったりするので、腹持ちだけでなく心も満たされるかもしれません。アルファ化米などは、アウトドアショップなどに行かないと手に入りづらいですが、レトルトのカレーやシチュー、スープ類などはスーパーで豊富に売っていますので、備えやすいですね。

 ここでの注意点は、温めるための道具や水分が必要になってくるという点です。カセットコンロ、ヒートパック、調理用の飲料水などを家庭内に備えておいたほうがいいでしょう。

 (2)が食べられる環境か否かは、非常時の食生活に大きく影響しますので、まだ準備していない方は備えることを強くおすすめします。先の話にあった「温かい食事をとること」の観点から言えば、防災食を備えることと同程度に「食事を温められる機材」は重要と言えるからです。

 (3)の「常温保存が効かず、加熱してから食べられるもの」は冷蔵庫の中身や冷凍食品などのことなので、防災食とは言えないのでは?と思われる方もいるかもしれません。しかし、実は災害が起こると、まず食べる必要があるのが(3)の生ものです。

 東日本大震災、北海道胆振東部地震、西日本豪雨など、最近の災害は停電が長く続く傾向にありました。被災された多くのご家庭では、最初の数日間は生ものを鍋で煮たり、雑炊にしたりしながら食べて過ごし、それでもライフラインが復旧しなかった地域は、そこから缶詰やレトルトを食べるようにしたといいます。

 お子様がいらっしゃるご家庭は特に、冷蔵庫の中身は充実しているでしょうから、停電時はどのように生ものを加熱調理するかなどについて考えてみるといいと思います(例えば、(3)をカレーにする場合、(2)もレトルトカレーを備蓄していたら、へきえきしてしまうかもしれません)。

 そしてここでも言えることは、「停電時でも温められること」「加熱調理できること」の大切さです。それがなければ、そのままでは食べられない生ものは廃棄するほかないでしょうし、食べられてもおいしくいただくことはできないでしょう。

 防災食の考え方、いかがでしたか。

 (1)、(2)、(3)ともに、必ず考えてほしいことは、それが「食べられるものであるか」「食べたいものであるか」「前向きな気持ちになれるものであるか」です。さらに、お子様の年齢によっても、ご家庭ごとに必要なものは異なるでしょう。

 ただ「備えていたものを食べる」のではなく、「食べたいものを備える」という観点で、防災食の備蓄を始めてみてください。被災時も立ち向かうことのできる、健康な心身を保つために。

 食べることは、生きる活力なのですから。

イメージカット/鈴木愛子

冨川万美
NPO法人ママプラグ理事 アクティブ防災事業代表
冨川万美 青山学院大学卒業後、大手旅行会社、PR会社を経て、出産を機にフリーランスに転向。東日本大震災で被災母子支援を行って以降、防災事業を中心としたNPO法人ママプラグ設立に携わる。二児の母。東京都のプロジェクト「東京くらし防災」編集検討委員。『子連れ防災手帖』『子連れ防災実践ノート』などの防災本の執筆も手掛ける。今年3月、『全災害対応!子連れ防災BOOK』(祥伝社、ママプラグ著)を上梓した。