災害時、まず困るのは食事とトイレ

 ライフラインが遮断されて、まず困るのは「食事」と「トイレ」と言われています。

 仕事帰りに友人や同僚と食事に行ったり、何かの記念日にはご家族でレストランを予約して出かけたりすることは、誰でもあると思います。かくいう私も、人生で何が一番楽しいかと言われたら、仲間たちとお酒を飲みながら「あーおいしい! 幸せー」と叫んでいる瞬間のような気がします。

 しかし、ひとたび大災害が起きると、そんな幸せな瞬間が一瞬で消え去ってしまうのです。

 皆さんは、防災食を備えていますか? 「防災食」と聞くと、イメージするのはどんなものでしょうか?

 おそらく、多くの方がカンパンや缶詰、クラッカーなど、味気のないものを想像することと思います。災害時の状況を想定して少量でカロリーが高いものの、特においしいものではないと思われているでしょう。

 しかし、災害に遭って非常に苦しい状況下にある中、それらの防災食を食べるところをイメージしたとき、災害から立ち直るような、前向きな気持ちになれそうでしょうか?

温かい食事はそれだけで人の心を癒やす

 東日本大震災における、こんな印象的なエピソードがあります。

 福島県にお住まいだったある老年のご夫婦は、自宅からの避難命令が出た際、自衛隊の方に「ここから出て、幸せになれることなどない。ここで生涯を終える覚悟でいるのでこのままそっとしておいてほしい」とお願いしたそうです。

 お二人は憔悴しきっていて、希望を見失っていました。自衛隊の方は、そのご夫婦の姿を見て、東日本大震災の被害の甚大さと、闇の深さを感じたと言います。しかし、「生きていればきっと希望はある」ということを伝えたくて、炊き出しに誘ったそうです。

 それでも、その老夫婦は動くことはありませんでした。そこで、自衛隊の方は自宅まで温かい豚汁を届けたのです。

 すると、温かい汁を口に含んだご夫婦は、「なんておいしいんだろう」と泣きながら召し上がったそうです。その後、それまで全く動かなかったお二人の口から、「避難所へ連れて行ってください」と申し出があったのです。

 「温かい食事というのは、それだけで人を癒やし、勇気づけるものなんですよ」とうかがって、これは絶対に伝えなければいけない話だと強く思いました。

食事は絶望的な環境下でも前向きな気持ちになれる、大切なもの
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