昔ながらの住宅地と新興住宅地、それぞれのメリット・デメリット

 また、地域によって大きく違いが出るのが、近所付き合いです。

 下町のように、古くから代々住民が生活を営んでいる地域は、いわゆるご近所付き合いがまだまだ活発なこともあります。東日本大震災や熊本地震、九州北部豪雨では、そんな人と人との助け合いが命につながったケースがありました。「あそこには3人子どもがいるはずだよ」「あの家は寝たきりのおじいちゃんがいる」などの声の掛け合いで、誰かが誰かを助けることができたのです。

 一方で、新しい住宅地も年々増えています。ここ10年ほどの間で、タワーマンションの増加や、駅前の再開発で、急にファミリー層が増えたという地域も少なくありません。

 古くからあった指定避難所にはもはや住民が入り切らず、もともと存在する町内会とは別に、NPOなどが地域のマネジメントをしているケースもあります。実際、そのような地域でのセミナーも多く、住んでいる方々ともお話しする機会が多いのですが、比較的、新しい住民同士(同年代のファミリー層)は仲良くしているのですが、昔からの住民(シニア層)との交流が極端に少ない傾向にあるようです。もちろん、マンションの隣の方の顔も分からない……といったことも少なからず聞きます。

 以上のことを踏まえると、それぞれの地域に防災面でのメリットとデメリットがあることが分かります。

昔からある住宅街
メリット 人と人との交流が活発で、いざというときに助け合える「顔見知り」が多い
デメリット 古い建造物や密集地が多く、火災や倒壊の可能性が高い

新興住宅街
メリット 道幅が広い、新しく頑丈な建造物が多いので安全性が高い
デメリット 人と人との交流が希薄で、一致団結して復興に向かうのが難しい

 上記にすべてが当てはまるわけではありませんが、地域の防災には、ハード面の安全性とソフト面の安全性の両方が必要です。

 住居が密集している地域にお住まいの場合は、身の安全を確保しやすいように自宅を整えたり、火災などの場合に速やかに避難できるような対策をしておく必要がありますし、ご近所さんの顔を知らない場合は、積極的に地域の行事に参加したり、学校行事で顔見知りを増やすことを意識してみましょう。

 「家」の防災を考えたとき、家具の転倒防止や物の備えを進めることに注意が向いてしまいそうですが、まずは家そのものが立っている地域を見直してみると、本当に必要な防災が見えてきます

 毎日リラックスして、幸せを感じるためには、住み心地がいい家が一番。今のお住まいが心地よいのであれば、より安全性を高める工夫を考えてみてください。お引っ越しなどをちょうど考えている場合は、一つの視点として、防災面を加えることをおすすめします。

(イラスト takagix / PIXTA)

冨川万美
NPO法人ママプラグ理事 アクティブ防災事業代表
冨川万美 青山学院大学卒業後、大手旅行会社、PR会社を経て、出産を機にフリーランスに転向。東日本大震災で被災母子支援を行って以降、防災事業を中心としたNPO法人ママプラグ設立に携わる。二児の母。東京都のプロジェクト「東京くらし防災」編集検討委員。『子連れ防災手帖』『子連れ防災実践ノート』などの防災本の執筆も手掛ける。