「学校に行く意味が分からない」と言われて

 いろいろな壁にぶつかりながら、母子3人の穏やかな暮らしを手に入れられた――。そんなふうに感じていた昨年、紫原さん一家は大きな岐路を迎えます。2人の子どもたちにほぼ同時に学校問題が持ち上がったのです。

 最初に異変があったのは、高校生活を楽しんでいたはずの長男でした。学校から「登校していない」と連絡が入ったのです。

 「朝、家を普通に出ていっていたので、当然、学校に行っていると思っていました。本当にびっくりしてしまって。学校からは遅刻や欠席が多いので、このままでは留年することになるとも言われてしまいました」

 将来、いろいろな選択肢を選べるようにと受験して入った中高一貫校。友人も多く、いつも人の輪の中心にいた長男に何があったのか。本人と話し合ってみると、「学校に行く意味が分からないんだ」という言葉が返ってきました。

 「『えっ?』と思いました。『意味が分からないならなおさら、取りあえず学校に行きながらその先の選択を考えたらいいんじゃない?』とも話してみたんですが、本人には全然響きませんでした。本当は、人間関係のトラブルなど違う理由があるんじゃないかとも思ったのですが、何度話しても『学校で学ぶ目的が見いだせない』と言うばかり。親としてどうしたらいいのか、本当に悩みましたね

子どもが選んだ道を応援すると腹をくくる

 そんな長男と向き合ううちに、「なんとか学校へ戻さないと」と思っていた紫原さんの気持ちも、少しずつ変化していきます。長男は学校には行かなくても、放課後、友人たちと楽しく過ごしていて、コミュニケーションには問題がなさそうです。

 「そういう姿を見ていると、無理強いはできないな、と気持ちが変わっていきました。そもそも、私は専門学校を中退していますし、元夫も高校中退。子どもに対しても学歴を重視しているわけではありません。私が主宰するオンラインサロン『もぐら会』などでも、頑張り過ぎて疲れ果ててしまった人をたくさん見てきました。無理をして心を壊すより、自分で選んだ道を進んでもらうほうがいいと、腹をくくることにしたんです

 結局、長男は高校2年の年末に中退。その後は半年間ほど、アルバイトやIT企業でのインターンを経験したり、あちこちの地方で働きながら旅をしたりしていたそうです。

 「今は自宅に戻ってきて、通信制高校に籍を置きながらDJになる夢に向かって勉強中。DJの動画をアップしたり、学童保育のアルバイトをしたりして忙しく過ごしています。まだまだ成長の途中ですが、本人が自分で選んだ道を親として応援していくつもりです」

中高一貫校をやめてフランス留学を目指す長女

 長男の学校問題が明らかになった数カ月後、中学生の長女も「学校に行きたくない」と言い出しました。自主性を重んじる校風に引かれて中高一貫校に入学していた長女。しかし、入学してみると「自分には合わない」と違和感を抱いていたのです。最終的にその違和感は「不登校」という形に。

 「元の学校には戻りたくないというので、地元の公立中学に転校することも考えましたが、本人が選んだのはフランス留学でした」

 西洋史などが好きな長女にとって、ヨーロッパ、特にフランスは憧れの場所。フランスの学校に通いたいと自分で留学エージェンシーを見つけてきて、さまざまな準備を進め始めたといいます。コツコツとフランス語の勉強を続けて、フランス語講師からは、仏検3級レベルと言われるほどに。そんな長女の姿に、紫原さんは「この子なら、ひとりで海外に行っても大丈夫」という思いが強くなったと言います。

 「娘が留学エージェンシーの人にいろいろ相談したとき 『あなたは自由になりたいんでしょう』と言われたそうです。確かに、子どもも私も、いつも自由を感じられることを大切にしてきました」

 留学準備が終わり、いよいよ4月から渡仏して、フランスの公立中学校に通うはずだったのですが…。

 「新型コロナウイルスの影響で、出発の直前にペンディングに。本人もすごくショックを受けていましたが、状況が落ち着くまでは準備期間と割り切って、フランス語の勉強に取り組んでいます」