旅は家族の句読点。一緒にいるだけで満たされる時間

 その後、長女が誕生してからも、毎年、家族4人で2~3週間ほどの長期で海外へ。忙しい日常をリセットする旅は、かけがえのない家族の時間の積み重ねでした。

 一番思い出に残っている旅はどこですか? そう質問を投げかけてみると「18年前に訪れたフィリピンにあるカオハガン島」という答えが帰ってきました。

 当時のカオハガン島は電気も水道設備もない島。何もかもが自給自足で、冷蔵庫もありません。たくさん魚が釣れたら、みんなで分け合う。肉や卵は飼っている鶏から。お酒はヤシの実からつくったヤシの実酒。何もない貧しい島ですが、子どもたちの弾けるような笑顔がとても印象的でした。

 「島の人たちの暮らしを見ていて、ここには、本当に幸せな暮らしがあるって思ったんです。幸せの価値はお金じゃないというのが、心から実感できた。島の子どもと一緒になって、うちの子も裸になって遊んでいる姿が、すごくほほえましくて。ああ、豊かな時間が流れているなーって」

 その風景は、大平さんの仕事にも大きなテーマを与えてくれました。「これからは、消費生活の反対側にいる人たちの生活や暮らし、その根底にある精神性をテーマに、自分にしかかけないものを書いていこう」。そんなふうに、今の大平さんにつながるキャリアの軸が決まったのです。

カオハガン島に行ったとき長女(左端)はまだ2歳。「すぐに地元の子どもたちと打ち解けて、大はしゃぎでした」
家族4人でスウェーデンに旅行したとき、貸小屋のオーナー宅での一枚

 旅は私たち家族にとって、句読点──

 家族で巡った旅を振り返りながら、大平さんが語った言葉です。

 「子どもに時間や手間をかけられず、忙しくしている毎日を旅でチャラにしようと思ったわけではないんです。家族4人で、これといってなにもせず、ただだらだらと一緒に過ごす。それだけでもけっこう心は満たされる。そんな時間こそが実はかけがえがないということを、私は旅から学びました」