仕事優先の子育て。子どもの様子にハッとさせられた

 大平さんは長男の出産と同時に、それまで勤めていた編集プロダクションを辞めてフリーライターとして独立。編集の仕事は大好きでしたが、時間が不規則で、子育て、仕事、家事の両立は、想像以上に大変でした。

 「子どもを生んだら誰でもすぐにお母さんのプロになれると思っていましたが、全然違いましたね。それまでは仕事中心の生活で、家事もロクにやってなかったのに、いきなり子育ても家事も仕事もしなくちゃいけない。すべてが手探りのまま、とにかく走り出した、という感じで……」

 夫も、結婚と同時にフリーとして独立。お互いに仕事が一番楽しい時期で、オファーがあれば何でも引き受けていました。保育園が終わった後や休日もベビーシッターを頼んで、なんとか仕事を回していたと言います。

 いつも時間に追われ、忙しかった大平さん。ある日、2歳の長男を預けていた保育園の保育士から声をかけられます。 「お母さん、ちょっとお話しできますか 」

 なんだろう──。だれもいない保育園のがらんとした小さな部屋で、子ども用の椅子に座り、向き合った大平さんに、保育士は、静かに言葉を選びながら長男の様子を話しました。

 「息子さん、みんながお休みの日に家族で遊びに行った話を始めると、すーっとその輪から離れていくんです。そして、一人でじっと壁を向いているんです。その様子がずっと気になっていて」

 「その言葉を聞いた瞬間、ショックで涙がポロポロ出てきちゃって。うちの子、どんな気持ちで壁を向いていたんだろう。保育士の先生も、ずっと話そうとしてくれたんだろうな。私、いっつも走っていて忙しそうで声をかけにくかったんだろうな、って」と大平さん。

 仕事は楽しい。働けばお金も入ってくる。でも、土日はおろか、朝も夜もないような生活で、子どもを置き去りにしていたのかもしれない

 「本当に、ハッとさせられましたね。すぐに夫と話しました。私たち、子どもが壁を向いちゃうような生活をするために、フリーになったんじゃないよね、って」