子に何か言う前に心を整えると、子の反応が違ってくる

—— 子育てにおいても、「私は何もしてないんですけど、うちの子が勝手にどんどん成長してくれるんですよ」などと言えるのが理想ですね。ですが、現実には、親は教育とかしつけという名の下に、子どもに細かく教えようとしたり、ガミガミ小言を言ってしまったりします。

武田 言うことで安心したいという面もあるのかもしれないですね。そういうときこそ、親は自分の感情をチェックするといいと思います。子どもに対して怒ってしまうときは、不安からくるネガティブな感情がベースになっていることがほとんど。子どもに声がけする言葉を選ぶときには、それがポジティブな感情から発せられようとしているのか、それともネガティブな感情からくるものかを見るようにするといいでしょう。

 これは、「心を整える」ということでもあります。書を書く時も、“今この瞬間”のみに集中して周囲のノイズを消します。すると、心が整い、全く緊張することなく書くことができます。野球選手も、バッターボックスに立つ前にひと呼吸置き、軽く体をほぐしたりして、心を整えたりしますよね。仕事において、大事な局面の前に心を整えるということは、誰しもがやっていることだと思いますが、子育てにおいても、子どもに何かひと言発する前にひと呼吸置き、心を整えつつ、表情を柔らかくする。それだけで、選んで出てくる言葉が全く違ってきますし、子どもの反応も大きく変わってくるはずです。

本当に伝えたいのは「毎日がパラダイス」という言葉

武田 ポジティブに考えてばかりいると、「毎日がパラダイス」という境地に達することができます。僕自身、常にパラダイスの中にいるような感覚で毎日を生きています。そうすると、周囲の人に対しては、感謝と感動しかなくなってくる。妻にも子どもにも、日々そうした感情で向き合っています。冒頭でもお話ししたように、「ただただ、いとおしい」という感覚です。

「毎日がパラダイス」という書がとても好きでよく書いているという武田さん。「お節介かもしれませんが、すべての人にこの言葉を伝えたいと本気で思っています」
「毎日がパラダイス」という書がとても好きでよく書いているという武田さん。「お節介かもしれませんが、すべての人にこの言葉を伝えたいと本気で思っています」

子どもを「見て」「触れて」「匂う」だけでいい

—— そのような仙人のような境地に達するにはよほどの修行が必要なのではないかと思ってしまうのですが…。

武田 難しく考える必要はまったくありません。子育てにおいて言えば、子どもを「見る」「触れる」「匂う」といった具合に、五感をフルに働かせて、感じ、触れ合うだけでいい。それだけで世界は広がっていきます。

 一つ、オススメのやり方があります。自分がイイ感じのときの感覚をマインドセットして、森羅万象と触れるようにするというものです。例えばビールが好きな人の場合、飲んだときに「クゥー!」ってなって、最高にいい表情になる、あの瞬間。子育てにおいていえば、子どもを心からいとおしいと感じたり、大好きだと思う瞬間。ほかにも、楽しいとき、穏やかな気持ちでいられているとき、誰かに感謝しているときなど、自分がイイ感じの瞬間は色々あると思うのですが、とにかくそうした瞬間の、自分自身の呼吸や表情、姿勢などを覚えておいて、色々な場面で応用するといいんですよ。他人ではなく他ならぬ自分自身の感覚なのだから、応用するのは難しくはありません。きっと誰でもできるはずです。それを意識するだけで、そうそうネガティブにはなれないものです。

(取材・文/國尾一樹、写真/小野さやか)

武田双雲
武田双雲書道家。1975年熊本県生まれ。3歳より書家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。東京理科大学理工学部卒業後、NTT東日本入社。営業職として約3年間の勤務を経て、書道家として独立。音楽家や彫刻家などのアーティストとのコラボレーションや個展など、独自の創作活動が話題となる。大河ドラマ「天地人」をはじめ、スパコン「京」、世界遺産「平泉」など数多くの題字やロゴも手がける。また、世界中からオファーを受け、パフォーマンス書道や書道ワークショップも開催。海外に向けて日本文化の発信を続けている。日テレ『世界一受けたい授業』など、様々なメディアに出演し、講演会やイベント出演も多数。『ポジティブの教科書』『「子どもといること」がもっと楽しくなる 怒らない子育て』など、著書多数。二男一女のパパ。