子どもの可能性を邪魔するのは親の期待

武田 そう思っていただけるとうれしいですね(笑)。ちょっと表現が難しいのですが、子育てをするうえで、夢とか目標というのは、そんなに持つ必要はないと僕は思うんです。なぜかというと、大人が持っている夢や目標というのは、あまりにも小さいから。この世の中、というかこの宇宙には人間の想像をはるかに超えるとてつもなく大きなイメージの世界があるのに、大人が想像できる範囲なんて、超ちっちゃい!(笑)

 だから、親がわが子に対して「こうなってほしい」などと夢や目標みたいなものを持ったとしても、そのイメージはとても小さい。大人は、今あるイメージにとらわれてしまい、その範囲内で子育てをしようとしてしまうのです。

 仏教語で「夢幻泡影(むげんほうよう)」という言葉があります。人の一生がはかないことのたとえで、「すべてのものは実体がなく空(くう)である」という意味です。そう考えてみると、親が持つ小さな世界観にとらわれて子育てをしようとすることほど、むなしいものはないかもしれないですね。

—— 親の期待に沿うようすればするほど、子どもは小さく収まってしまうのでしょうか?

武田 そう思います。誤解を恐れずに言えば、親がこう育ってほしいと思うイメージは、子育てにおいてどうでもいい。子どもは決して親の思い通りには育たないと僕は思っています。子どもは、親が想像できないほど無限の可能性を持っています。それを邪魔してしまうのは、親の期待なのです。

 親が子どもの成長に関われることなんて、本当にちっぽけなことでしかない。そう思うことができるようになれば、少し気が楽になるのではないでしょうか。

 農薬を使わないオーガニック農家の人たちは、皆さん「ちゃんと土を作ってあげれば、あとは何もしなくてもおいしい野菜が育つ。野菜ってスゴいんですよ」と言います。この感覚が、子育てにも必要なのではないかと思います。オーガニック野菜と同じく、子どもたちは本当にスゴいんです。

 親を見ていて僕がいつも違和感を感じるのは、わが子に関してジャッジするのが早過ぎるということ。いいとか悪いとか、危ないとか、正しいとか……。不安にかき立てられるように判断したり、子どもの将来のために何かを教え込もうとしたりしている感じがします。そうではなく、何かもっと土の匂いがする子どもに育てたほうがいいのではないでしょうか。

 そんなに不安になる必要はないと思います。なぜなら、子どもはいつも僕たち親の想像を超えていきますから。僕は子どもたちのスゴさにいつも驚いています。「本当にスゲーなぁ!」って感動していますし、子どもたちをリスペクトしています。不安に追い立てられている親の皆さんに言いたいのは、「大丈夫ですよ! 子どもは勝手に育ちますから!!」という、ひと言ですね。

(取材・文/國尾一樹、写真/小野さやか)

武田双雲
武田双雲書道家。1975年熊本県生まれ。3歳より書家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。東京理科大学理工学部卒業後、NTT東日本入社。営業職として約3年間の勤務を経て、書道家として独立。音楽家や彫刻家などのアーティストとのコラボレーションや個展など、独自の創作活動が話題となる。大河ドラマ「天地人」をはじめ、スパコン「京」、世界遺産「平泉」など数多くの題字やロゴも手がける。また、世界中からオファーを受け、パフォーマンス書道や書道ワークショップも開催。海外に向けて日本文化の発信を続けている。日テレ『世界一受けたい授業』など、様々なメディアに出演し、講演会やイベント出演も多数。『ポジティブの教科書』『「子どもといること」がもっと楽しくなる 怒らない子育て』など、著書多数。二男一女のパパ。