よく怒る人は、自分のOSに怒るプログラミングをしてしまっている

武田 実は、子育て本の出版のきっかけになった背景に、自宅のアトリエで開いている書道教室に通う子育て中のお母さんからも子育てについての悩みをよく相談されていたこともあります。

 皆さん、どんな子育てをしているんだろうと興味がわいたので、その子どもたちにも聞いてみたところ、「朝から怒鳴られてばっかり!」とか、「いつもお母さんは怒ってる!」といった答えが多かった。怒ってばかりのお母さんって、いっぱいいるんだと知りました。

 僕は、親が子どもに対して怒るということを否定しませんが、お母さんたちの相談を受けていると、「怒りたくないのに怒ってしまう」という話が次々に出てくるんですよ。だったら、僕なりの「怒らない方法を教えます」という流れになっていったわけです。

—— なぜ、親は怒りたくないのに怒ってしまうのでしょうか?

武田 僕が考えるのは、メカニズムの問題です。根本は全部同じで、人間はみんなWindowsなどのOSで動いているようなものです。みんな同じ細胞数で、同じ神経経路を持っていて、分泌されるホルモンも同じ。当然、持っている分子も同じだから、OSのプログラミングさえしっかりすれば、ちゃんと動くはずです。

 そう考えると、怒る人はOSに怒るプログラミングをしてしまっているだけなんです。そういったことが理系人間としては何となく見えてくる。でも、特に女性、つまりお母さんにそのプログラミング情報とかマニュアルの話をしながら教えようとしても、なかなか伝わらないんですよ。

 普段は穏やかそうなタイプのお母さんに、「最近、子どもを怒ってしまったことがありましたか?」と聞いてみると、「何度も注意しても忘れ物をしてしまうんです!」などと、そのときのことを思い出してイラッとした感じになります。ところが、面白いことに、そのお母さんが後輩ママから「何度注意しても忘れ物をするんだけど……」などと相談されたら、「男の子だからしょうがないよ〜、よくあることだから!」なんて、サラっと言っている。

わが子との心の距離が近過ぎるとすべてが見えてしまう

 当たり前のことですが、他人の子どもがいくら忘れ物をしようが、イラッとすることはないですからね(笑)。結局、それはナゼかというと、「距離」の問題。例えば、太陽はちょうどよい距離にあるから「お天道さま」とか「太陽神」などとありがたがられます。しかし、すごく近くなると「うわ、あっついっ!」となる。新幹線に乗っていて、遠くから眺める富士山は美しいけれど、最接近したところで眺めると「大き過ぎてこわい」みたいな(笑)。

 何が言いたいのかというと、親、特に多くのお母さんは子どもとの距離が近過ぎるんですよね。距離が遠ければ何でもないのに、わが子との“心の距離”があまりにも近いとすべてが見えてしまうし、期待も大きくなってしまう。そこで、ついつい怒ってしまうんです。

 普段は穏やかなお母さんに聞くと、「自分の怒りにビックリしている」とか、「子育てするようになって怒りが湧き上がってくるようになった自分に驚いた」と言います。子育てをするなかで、多くのお母さんの間で大問題になっているのは、「なぜ、ここまで怒ってしまうのか?」ということ。冷静に考えてみたら、すごく不思議なことですよね。