—— ほとんどの親は、わが子の将来が気になって、あれこれ聞こうとすると思いますが……。

武田 全くなかったですね。そもそも武田家には“未来言葉”と“世間体言葉”が一つもなかった。マジメな人ほど、無意識に世間体や未来に関する言葉を使おうとして、ヘタすれば言葉の8〜9割がそうなってしまう。だから、子どもに対しても「勉強さえしておけば、将来どうにかなる」といった考えを持ってしまい、「勉強しなさい!」と言うようになってしまうんでしょうね。

 僕は少し特殊な環境で育ったと言っていいでしょう。そんな自分が親になると、子どもたちを同じように育てることしかできないから、怒らない。でも、妻は“超常識人”なので(笑)、常識的な子育てをちゃんとしようとしても、僕があまりにズボラ過ぎてビックリしていました。特に長男が生まれたばかりのころは、お互いの考え方のギャップにお互いがビックリで、いつも「えーっ!?」っていう感じ(笑)。長男出産後が妻のストレスのピークだったと思います。

 そんなことも含め、長男が生まれたころから子育てについてブログに頻繁に書くようになったこともあり、ブログを読んだ読者からの悩み相談も多くなっていったんです。それを見た出版社の方からお声がかかったというのが、出版することになったキッカケですね。

時間の余白がたっぷりの毎日

—— 子育てについては、どんな感じで関わっていらっしゃるのですか?

武田 3歳の男の子、小学4年生の女の子、中学1年生の男の子の3人の子どもがいますが、僕はフリーランスだし、出かけることもあまりないので家にいる時間が多いんですよ。基本的に子どもたちが家にいれば一緒にご飯を食べるし、頻繁に公園に行ったりしていました。最初は分からないことだらけでしたが、オムツを替えたり、お風呂に入れたりといったことも含め、たぶん、育児に関しては会社勤めのお父さんよりしているほうだと思います。

 僕、1日の仕事時間が超短いタイプなんです。講演会などは移動時間も含めて2日間あるうち、90分ほど喋るだけとか。作品を制作するのも一発で仕上げちゃうタイプで、1時間くらいで終了! 自然と時間的に余裕のある毎日を過ごせていると思います。

 書道的に言えば、「余白がたっぷりある」といった感じですね。だから、毎日、「今日は何しよっかなぁ?」って考えることが多いですね。「今日は子どもと公園に行こうかな」とか、「妻とランチでも行こうかな」とか……。

子どもたちに進路や成績について聞くことはないと思う

—— 会社員をされていた時期もありましたが、時間の余裕を作るコツなどはありますか?

武田 コツと言えば、「時間のやりくりをしない」ことですよね。僕は義務感がゼロなので、人生のなかで「やんなきゃいけない」ことがないし、逆に「やりたくないこと」もないんですよ。そういうふうに生きてきて今に至るのですが、3歳の子どものまんまと言っていいかもしれません。幼いころから、僕は自分が面白いと思う方向にしか行かないんです。

 書道以外でメディアの皆さんに注目してもらえる理由は、そういう一風変わったところなんでしょう。言い換えればアーティスト体質になるのかもしれませんが、僕は「今」しか生きられないんです。それしかできないというか、未来に向かって生きることができない。

 自分のなかに大きなビジョンはありますが、戦略などは立てないし、目標とか達成感といったものがよく分からない。だから、子どもたちに進路や成績のことについて聞くということもないと思います。自分がそうだったように、親子で「今」を大切に味わい尽くすような時間を増やしてほしいですね。