厚生労働省の発表によれば、ガンは1981年から日本人の死因の第1位。生涯のうちにガンにかかる可能性は、男性の2人に1人、女性の3人に1人と推測されています。2歳の息子を持ち、幼稚園の先生をする妻と共働きをしていた写真家・狩猟家の幡野広志さんは、2017年に多発性骨髄腫という血液ガンを発病。余命3年と告知されました。その後、ブログやSNSでの情報発信に力を入れ、各界から注目を集めています。幡野さんにインタビューしました。

【写真家・幡野広志 ガンになり、思う。「人生は好きなことをやる時間」】
(1)パパ写真家・幡野広志 34歳で多発性骨髄腫になる ←今回はココ
(2)幡野広志 放射線治療で容体改善 悩み相談で多忙に
(3)ガンはリトマス紙 その人の生き方がすべて表れる
(4)子が欲しがる物を買わないことが子の可能性を摘む

夜、横になっても眠れないほど、背中が痛みだした

日経DUAL編集部(以後、――) 今や、統計的には3人に1人、あるいは2人に1人が生涯のうちにガンになるといわれています。確率的には誰がガンになってもおかしくないのですが、自分や身近な人がガンになると思って暮らしている人はほぼいないと思います。

幡野さん(以後、敬称略) そうですよね。今、健康であれば、「自分もガンになるだろう」と考える人なんていないでしょう。僕自身が自分の体調の異変を感じたのは、2017年の6月でした。背中が何とも言えず痛くなって。最初は「疲れたのかな」と思っていました。でもまだ病院に行くレベルではなく。30歳を超えると体にガタがくるってよく聞くじゃないですか。「これが、あのガタか!」と。

 仕事柄、日常的に重い機材をたくさん持つので、そのせいで肩が凝っているのかな、と。ただ、夜がつらくて。横になると痛みのあまり眠れず、市販の鎮痛剤を飲むようになりました。少しして睡眠薬も飲むようになりました。僕は花粉症などのアレルギーがあるので、花粉症の時期にネットで取り寄せて薬を常備していたんです。鎮痛剤と睡眠薬でやっと眠るという感じでした。

 6月のうちに病院にも行きました。まず整形外科でレントゲンを撮ってもらいましたが、何も映らない。痛みの範囲がちょうど帯状疱疹が出る範囲と一致していたため、「疲労が原因の帯状疱疹が出る予兆でしょう」と言われ、帯状疱疹の薬と鎮痛剤を処方されましたが、もちろん痛みは変わりませんでした。

 次は内科に行きましたが、それでも原因が分からず。一応、鎮痛剤と睡眠薬で何とかなっていたので、「いずれよくなるだろう」と思っていたんです。でも、10月になって、夜中に痛みのあまり呻きだすほど容体が悪化してしまいました。日中は、何もしなければ大丈夫なのですが、例えば車の運転なんかで、同じ体勢を長時間続けると痛みがひどくなる。夜、寝るときも、同じ体勢を長時間続けるのがつらいわけです。

 そして、10月末のこと。仕事で撮影中に背骨が「ピキッ」といって上半身が動かなくなり、「これが世に言う『ギックリ腰』か」と思って整形外科へ。それでも「何もないね」と言われて。その後、鍼とマッサージにも通いましたが、「ギックリ腰なら1~2日で治るはず。幡野さんみたいに何日も痛みが出るってあり得ないよ。もっと大きい病院に行くか、精神科に行ったほうがいい」と言われました。

 それで、11月下旬に大きい病院に行き、体の調子がおかしいと訴えたら、「ではMRIを撮ってみましょう」と言われました。体の状態が最悪だったのは、あのころです。胸や背中に加えて足も動かなくなったんです。中腰になると生まれたての小鹿みたいに動けなくなる。体調を理由に仕事も断るようになりました。MRIを撮るときに20~30分ぐらい同じ体勢を取ること自体が地獄でした。痛くて痛くて耐えられなくて。

―― そして、検査結果が出たのですね。

「僕が自分の体調の異変を感じたのは、2017年の6月でした」(幡野広志さん)
「僕が自分の体調の異変を感じたのは、2017年の6月でした」(幡野広志さん)