「ガンで死ぬ」というのは、悪くない死に方じゃないかな

幡野 いろんな物事を知りたいなって思いますよね。僕は好奇心がすごく旺盛なので、今もずっとスマホとかパソコンで調べ物ばかりしているんです。知らないことを知りたい。行ったことがない所に行きたいし。

 面白いもので、健康だったときの「お金が欲しい」とか「女性にもてたい」とか「いい車に乗りたい」とかいう欲は、死ぬ、となったら無くなるんですよ。特にお金ね。お金はあの世に持っていけないからかな、全然お金に縛られなくなるんです。反対に、何か社会の役に立ちたいという気持ちが湧いてくる。定年退職した方が急に横断歩道に立って子どものために黄色い旗を持つようになる気持ちが分かる。なので、僕は今、すごく何か社会の役に立ちたいなと思っていますね。

 ガン患者になって、ガンを取り巻く環境がよく分かりました。色々なガン患者にお会いしましたけれど、ほとんどのガン患者さんって苦しんでいる。家族のせいで苦しんでいる人もいれば、医者のせいで苦しんでいる人もいる。高齢の方がほとんどなので、ものも言えないし、そもそもガンになっているから、自分の存在が迷惑だと思って遠慮してしまっている。今、すごく多くの人が僕の発言を見てくれているので、それをうまく利用して、少しでも社会がよくなればいいなと思っているんですけれど。

 自分がガンになる確率は少なからずあって、自分がならないにせよ、周りの人がガンになるとか、必ず誰しもいつかガンに関わるときが来ます。だから、誰もがガンについて、もっと知っておいたほうがいい。地震が来たらみんな机の下に隠れますよね。これって訓練を受けてきたからでしょう。だけど、ガンに関しては訓練を受けてきていないから、何も知らない

 それに、ガンにならないにせよ、人間は必ずいつか死ぬわけです。だから、死ぬということもちょっと考えたほうがいいだろうし。先日亡くなられたガン患者の山下さんという方が、以前インタビューで「ガンはそんなに悪いものじゃない」って言っていたんです。僕はそのインタビューを聞いていて「確かに」と思いました。確かにガンって苦しいですが、痛みのコントロールとか治療とか並行していれば、虫歯とそう変わらないんですよ。いつかはガンのせいで死んでしまいますが、「死ぬこと=悪いこと」と考えたら、人間誰も産まれたくないわけじゃないですか。

 ガン患者になれば大体、自分の死ぬ時期が分かるわけです。「あなたは今この場で死にます」と言われるのと、「1年後に死にます」と言われるのとでは、1年後のほうが僕はいい。自分も周りも心の準備ができます。ガンで死ぬというのは、割とメジャーな死に方だし、悪くないんじゃないかな、と僕は思うんです。

―― DUALの読者は30~40代で、お子さんをお持ちの方が多いのですが、DUAL読者に伝えたいことはありますか?