厚生労働省の発表によれば、ガンは1981年から日本人の死因の第1位。生涯のうちにガンにかかる可能性は、男性の2人に1人、女性の3人に1人と推測されています。2歳の息子を持ち、幼稚園の先生をする妻と共働きをしていた写真家・狩猟家の幡野広志さんは、2017年に多発性骨髄腫という血液ガンを発病。余命3年と告知されました。その後、ブログやSNSでの情報発信に力を入れ、各界から注目を集めています。幡野さんに特別インタビューを実施しました。

【写真家・幡野広志 ガンになり、思う。「人生は好きなことをやる時間」】
(1)パパ写真家・幡野広志 34歳で多発性骨髄腫になる
(2)幡野広志 放射線治療で容体改善 悩み相談で多忙に
(3)ガンはリトマス紙 その人の生き方がすべて表れる ←今回はココ
(4)子が欲しがる物を買わないことが子の可能性を摘む

ガンはリトマス試験紙 その人の人格を如実に表してしまう

日経DUAL編集部(以後、――) 以前、別のインタビューで、「死というものを家族に伝えるときに、できればユーモアを伴って伝えたい」とおっしゃっていましたが、既にそれは実践されているのですか?

幡野さん(以後、敬称略) そうですね。日常的にそうしていますね。真面目で暗い雰囲気になると、妻も聞きたくなくなってしまうと思うので、ごはんを食べながらとか「俺が死んだ後の話なんだけどさ」って普通に話しています。現実に目をつぶって、あたかも病気なんて何も無いように振る舞うのは簡単です。でもそれは現実逃避であり、無責任ですよね。だって僕が何も言わずにあと3年とかで勝手に死んじゃったら、後に残されたほうは困りますよね。だから、ある程度、やっぱり細かく言っていかないと。例えば僕が今妻に伝えているのは、僕の作品のプリント方法。パソコンの電源の入れ方から説明して「ここのフォルダに写真があるんだよね。これがフォトショップで……」って。妻は写真をプリントアウトする練習をしていますよ。

―― そういうときに、奥様が泣いてしまったりしませんか。

幡野 いつも笑っていますよ。僕が悲しんでたり、苦しんでたり、自暴自棄になっていたりしたら、妻もそうなるのかもしれませんが、患者自身が明るく振る舞っているから周りも暗くならない。多分そう。感情って伝染するんですよ。だから患者はできるだけ平静を保つように努力したほうがいい。だいたい告知を受けて2週間ぐらいで立ち直る人は立ち直りますよね。ある意味、ガンというのはリトマス試験紙。その人の人格を如実に表してしまいますよね。

―― 実は私もつい先日、中学校時代の恩師をガンで亡くしました。何も言わずに亡くなってしまって。もっと色々お話ししたかった。

幡野 そうなんですよね。でも、「死にますよ」という話を受け入れられない人もいっぱいいるんです。僕の妻には受け入れてもらわなければいけないので言いましたけれど。例えば、僕の母とか親族とか妻の親族からは受け入れてもらえません。だから、僕も話をしない。患者自身も受け入れて、冷静に話すことも必要だし、聞く側がちゃんと耳を貸すことも必要なんです。親族の人とか相手に一番ストレスだったのは、「僕もあと3年ぐらいで死ぬから、写真とか撮りながら過ごしたいんだよね」「情報発信していきたいんだよね」なんて話すと、他のおじとかから「おまえ、そうじゃなくて、入院して、最後までやり切ってくれよ」とか言われたりするわけですよ。「最後までやり切る」って「胆汁を吐くこと」ですよ。自分勝手な人が多い。だから病気っていうのは、本人、周りの人を含め、本当に人を表しますよ。それまでどういう生き方をしてきたか、死生観も含めて、全部総決算のように表れてしまう。

―― それってなってみるまでは分からないじゃないですか。どうして幡野さんは、最初からそんなに腹が据わっているんでしょう。

幡野 僕は狩猟をやっていて、食べるために自分より大きな動物を捕っていたわけです。その際、山の中でいろんな動物がいろんな動物を食べていたりするのを目撃しました。何かの「死」は、次の動物の「生きる」につながっているということを目の当たりにしていたんです。例えばこの間は、山の中でニホンザルが死んだカモシカを食べているのを見ました。カモシカの「死」がサルの「生」につながっていた。その「輪」にみんな入っているわけなんです。もちろん自分も例外ではなく。そういう関係性を自分の目で見ると、自分の死も当たり前のこと。次の人間につながればいいかな、と思うんです。狩猟をしていたことは、僕の中ですごく大きいですね。死生観を養うという意味でも。

―― 幡野さんが悩まれたときって誰に相談するのですか?

幡野 大学病院で治療をしていたときに緩和ケアに掛かっていて、そこの看護師さんには相談ができて良かったんですが、体調が少し良くなったら緩和ケアを外されてしまって。僕も日々、ストレスや悩みもあるんですよ。それで知り合いの看護師に、「いい先生いない?」と聞いて、近所のメンタルクリニックを教えてもらって通っていました。電話で「僕はガン患者でして、特に心を病んでいるわけではないのですが、話を聞いてほしいんです」と言って。そこに行ったときも、悩みというか、グチを話す。面倒臭い親族に対するグチとか。

―― 「この人は付き合っても、自分にとってプラスにはならない」ということを見極める方法ってあるのでしょうか。

幡野 悩み相談を大量に受けて分かったのですが、その人に悩みを相談してみたら分かりますよ。悩みを相談したときにどう答えるかで、「その人と付き合っていいかどうか」が分かります。こちらを否定して、自分の考えを押し付けてきたら、もうその人とは付き合わないほうがいい。“こっちの人生をくみ取れない人”だから。

―― 今後、残された時間で「やっておきたいこと」を教えてください。

「患者自身が明るく振る舞っているから周りも暗くならない。多分そう。感情って伝染するんですよ」(幡野広志さん)
「患者自身が明るく振る舞っているから周りも暗くならない。多分そう。感情って伝染するんですよ」(幡野広志さん)