日常生活は人間の暮らしの基礎。興味を見つけられない子には自信を持たせて

 ピッチャーを用いて、水をグラスに注ぐ。こんな単純な作業でさえ、はじめのうちは水をこぼしたり、グラスをひっくり返したり、上手にできないかもしれません。でも、繰り返し行ううちに、ひとりでできるようになります。グラスを落として割ってしまうことも大事な経験のうち。親がとやかく言わなくとも、粉々に砕けたグラスの破片が、注意深く扱わずうっかり壊してしまったら二度と戻らないことを子どもに雄弁に語りかけるからです。まずは、子どもの力を信じることです。

 ひとたびできるようになれば、「より高い所から水を注いでみよう」とか「もっと深い器にしたら何回水をくみに行けばいいのかな」など自発的に工夫してもっと挑戦してみようという気持ちになるかもしれません。

 この日常生活というものは人間の暮らしの基礎です。幼児期の子どもに限ったことではありません。ですから、日常生活のお手伝いをしている子どもが、字を書いたり、計算をしたり、英語を習ったり、塾へ通ったりする子どもよりも劣った「おしごと」をしているなどとは決して思わないでくださいね。子どもが必要だから、日常生活の動作を繰り返したがっているという視点で子どもを見守ってほしいのです。

――― 自分の興味の対象見つけられない子や、集中力が続かない子どもに対してはどうすればいいですか。

高根 これまで私は何度も「大人の余計なお邪魔」を制してきましたが(笑)、時には介入を必要とする子どももいます。何事にも消極的で、受け身な子どもの場合です。その場合は子どもがいまやろうとしていることに注目して、「あなたはできるのね」「お上手ね」「ブラシを持ったのね。すてきね」など自信を持たせるような励ましをやわらかい口調でしてあげるといいですよ。ただし、少し離れたところから、そっと、くらいがちょうどいい。

 こんな話を聞いたことはありませんか。「よき栽培者は植物に肥料をほどこす時、その根元にではなく少し離れた所に与える」と。少し離れた所から与えることで、植物は自分の力で大地に根を伸ばし栄養を受け成長し、素晴らしい実をつけるのだそうです。子育ても一緒です。子どもの力を信じましょう。親の信頼が子どもに伝われば、子どもは自信が持てる子どもに育ちます。

エレメンタリースクール(6歳~)に通う生徒の手書きの模写。目をみはる集中力で図鑑を模写していました
エレメンタリースクール(6歳~)に通う生徒の手書きの模写。目をみはる集中力で図鑑を模写していました