深い集中力を体験した子どもに芽生える、平和で人のお役に立ちたいという心

――― 「集中」という現象をモンテッソーリは重要視していましたが、なぜでしょう?

高根 マリア・モンテッソーリはこんなことばを残しています。「集中は、内なる力の源泉であり、他者の中からその人物を際立たせる内なる強さでもあります」

 モンテッソーリが「集中」という現象に注目したきっかけは小さな女の子が深い集中とともにはめこみ円柱を40回以上も繰り返し行う姿を目撃したことでした。その後、子どもの集中を可能にする対象をできる限り探し、子どもの集中をもたらす条件や環境を長い時間をかけて実験し研究したのです。これが今日、世界中で用いられている「感覚教具」となり、モンテッソーリメソッドというものの確立につながりました。

 深い集中を経て、「自分で、できた!」という体験を得られた子どもは喜びと自信にあふれ、自分を信頼できる子になります。自分を信頼できる子どもは友達の欠点を許してあげられる子に育ちます。「自分で、できた!」という達成感を味わった後の子どもの心はとても穏やかで、自然と平和な気持ちが作られるようになります。その平和な気持ちはやがて、人の役に立ちたいという心をもたらすのです。

 また、繰り返し手を使う中で、知性への扉が開かれ、強い精神を育むことができます。「私は、できた!」という満足感が持てると、さらにやってみたくなります。肝心の子どもの心の奥に隠された子ども自身の力を引き出すことです。そのためには深い集中が必要で、その集中をもたらすためには、子どもの発達段階に見合った刺激を与える工夫がポイントになります。難しすぎず、易しすぎず、ちょうどいい刺激が必要。そんな刺激を子どもに投げかけられたなら、それが何よりの「援助」になります。

モンテッソーリの感覚教具のひとつ、「ビーズ棒」。鮮やかなオレンジの珠を10集め、1本の棒にしていく過程で、子ども達は「長さ」で数の単位を覚えていきます
モンテッソーリの感覚教具のひとつ、「ビーズ棒」。鮮やかなオレンジの珠を10集め、1本の棒にしていく過程で、子ども達は「長さ」で数の単位を覚えていきます