青年団を主宰し、世界的に活躍する劇作家・演出家の平田オリザさんは、大阪大学COデザインセンター特任教授、東京芸術大学COI研究推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐などを歴任し、さまざまな場所、形で教育活動に携わっています。学校選びや学ぶ環境について、あるいは親の心構えなど、今の子どもたちが20年後、生き抜くための力を身に付けるために必要な「教育」について、平田オリザさんと考えていく本連載。

コミュニケーション教育がなかなか進まない理由について扱った前回に続く今回は、連載の最終回となります。コミュニケーション教育に関し、親ができること、働きかけていけることについて、語っていただきました。

指導者不足と予算の問題は

 非認知スキルは「問題解決力」「批判的思考力」「協調性」「主体性」「自己管理能力」など、「従来型の能力=学力」以外の能力を指し、「コミュニケーション力」はその一つとして重視されています。このコミュニケーション力の向上に役立つのが、演劇です。よく子どもは「○○ごっこ」というごっこ遊びの中で、いろんな役割を演じ、社会性やコミュニケーション能力を身に付けていくものですが、それを教育に取り入れようというわけです。

 この連載で以前、「非認知スキルは保育園や幼稚園時代から身に付けていくものということが常識になってきた」とお伝えしたことがありますが、実際、演劇を未就学児からスタートしている自治体がちらほらと出てきています。

 僕が移住した兵庫県豊岡市の場合、2015年から演劇教育を導入していますが、当初小学校高学年対象だったものを、今後は小学校低学年にも広げます。例えば6人一組くらいのグループを作り、それぞれがなりたい役を言って、役から劇を考えていくスタイルを取ったりしていますが、そうなるとグループに1人は大人(指導者)が入る必要がある。となると人員の確保が急務になりますが、豊岡市の場合は青年団の移転に伴い、劇団員が移住しているので、それが可能になるわけです。

 先生も慣れてくれば指導者が務まりますが、一方で働き方改革により先生の負担を増やさないようにしなければなりませんよね。豊岡市ではそのために予算をかけて、劇団員を配することになったのです。

 結局、人件費の問題は大きい。これは何度も繰り返してきた通り、コミュニケーション教育が今後、重要な地位を占めるようになることを理解したうえで、各自治体が教育にどれくらい予算をかけられるかで大きな差が生まれるでしょう。

 現在、指導員になるための訓練は、われわれの青年団や青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラムなどで、受けることができます。今後は各大学の教育学部で、社会人講座を含め、養成講座を開いていくといいのではないかと思っています。

演劇体験はコミュニケーション教育のためにも大事(写真はイメージです)
演劇体験はコミュニケーション教育のためにも大事(写真はイメージです)