コミュニケーション能力は生涯所得にまで影響する

 この連載の中で何度も伝えてきましたが、残念ながらコミュニケーション格差は今後、ますます広がるでしょう。なにしろコミュニケーション教育格差により能力が欠如するとしても、損をしていると感じている人はごく一部です。これではコミュニケーション教育に関する方針を変える理由がありません。

 米国では、非認知スキルの就学前教育がもたらすものの大きさが研究されています。ノーベル経済学賞受賞者でシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授は、実証研究の結果を踏まえ、就学前の非認知スキルを高める教育による社会的収益率は、15~17%と非常に高いことを指摘しました。「恵まれない境遇にある就学前の子どもたちに対する投資は、公平性や社会正義を改善すると同時に、経済的な効率性も高める非常にまれな公共政策である」としています。

 大げさかもしれませんが、非認知スキルの一つであるコミュニケーション能力は、生涯所得にまで影響するのではないかと、考えています。

 豊岡市のケースでは、城崎小学校で2015年度からコミュニケーション教育を取り入れているため、現在の城崎中学校の中学生は全員、コミュニケーション教育を受けた世代になります。市長が各中学を回って話をするなかで、質疑応答の時間に最も発言が多いのが城崎中だと言います。城崎小の場合、旅館を経営する家の子どもが多いため、比較的コミュニケーション能力が高い子どもが多いとも言えますが、現場としては授業中の発言が活発になっているなど、コミュニケーション能力が向上しているという実感があると聞いています。非認知スキルの中でも失敗を恐れず、意見を他人の前で言うことが好きで、自分にはいいところがあるという自尊感情が大きい子どもが、育ってきているのです。

 こうした能力が高まることで、学力や進学実績、留学、最終的に各個人の生涯所得などにつながっていくようなエビデンスが出るまでにはかなりの時間を要しますが、ただ出てくれば、皆さん分かってくださると思っています。