「下に落ちてはならない」というものすごい強迫観念

 ところで都市部で7、8割の小学生が中学受験をすることについては、「教育虐待」につながりかねない要素が含まれています

 冷静に考えたら、中学受験をする7割の子どもの家庭がすべて、富裕層であるわけがない。ということは、中間層の人たちが「公立中に進学させるわけにはいかない」から、「少し無理してでも受験させている」、つまり経済的あるいは学力的に無理している可能性が高いわけです。

 今の親世代は、「下に落ちてはならない」というものすごい強迫観念を抱いている。格差社会が広がり、社会が二極化しているのが原因でしょう。少し前なら「中間層」を狙えば十分で、「うちの子は普通に育ってくれれば」という世間体を持っていたり、本当にそう思っているご家庭もあったことでしょう。

 ところが今や「All or Nothing」。どんな親でも自分の子どもが転落することを恐れ、かつてより強い強迫観念が働くようになっている。だから、幼少期からプログラミングだ、英語だ、学習塾だとせっせと通わせて「これができなければ!」と子どもに思わせるなど、時間的にも精神的にも子どもをどんどん追い詰める「教育虐待」をする親がじわじわと増えてきていると感じています。

最終学歴を「大学院」と考えることで生まれるゆとり

 前回もお伝えしましたが、中学受験をさせるご家庭の中には、まだまだ「一流大学に進学させることで、就職を有利にしたい」という意識があるのではないでしょうか。その背景にあるのは、「大学名で採用する企業が子どもたちが大人になったときにも多い」という幻想があるからでしょう。

 その昔は、旧財閥系の企業などは、旧帝大系の大学出身者でないと入社試験すら受けられないということがありました。でも実際には、先端的な企業ほどそういう風潮はなくなっていますし、大学の教育からすると、研究者の場合は学部がどこかということはほとんど関係なくなっています。

 例えば「iPS細胞」の研究をされている山中伸弥教授は神戸大学ですし、僕とロボット演劇をやっている石黒 浩先生は山梨大学であり、どちらも旧帝大系出身者ではありません。

 僕自身は学歴は重視していませんが、どうしても学歴が欲しいなら、「一流の大学院」を目指せばいいんです。大学まではそこまでではなかった…という人でも、大学院は大学より入りやすいケースもあるので、大学院で「一流」を目指せばいいんです。今の時代、修士2年で24歳になっていても、さほど就職に不利にはなりませんし、理系であれば大学院卒はごく普通ですよね。

 大学まではいろんな楽しい経験をして、教養を身に付けて、最後に大学院に入るために一生懸命勉強して、大阪大学でも京都大学でも目指せばいい。すると最終学歴は京都大学になるわけですから、そのほうが「効率」はいいですよね。