東京都市部が“シンガポール化”

 例えば成人式も成り立たなくなります。僕自身は成人式後に中学の同窓生たちと二次会をしましたが、それが成立しなくなりますよね。おそらく小学校の同級生のことって、大人になると、さほどよく覚えているわけではないのではないでしょうか? よほど努力をして付き合いを継続させなければ、なかなか「地元の友達」意識を持ちにくいのではないかと思います。

 でもごく最近、幼稚園向けの雑誌の取材を受けたときに、東京のある区では、今や幼稚園が最後の砦(とりで)になっていると聞きました。小学校から私立や国立など地元を離れた学校に通うがために、幼稚園つながりで「パパ友」「ママ友」を継続させなければならないというんです。

 僕はもうこれを“シンガポール化”と呼んでいます。シンガポールも少子高齢化が進展していて、移民や外国人を受け入れている多民族国家になっていますよね。でも、受け皿となる地域づくりがまだまだ追い付いていないと言われています。これが、日本の都市部でも起きてきてしまっているわけです。

 地域社会が成立していないと、防犯・防災の面でも不安が残ります。

小学校に通うのにバスで「護送」される子どもたち

 イタリアの高級ブランド「アルマーニ」の制服で有名になった東京・銀座にある中央区立泰明小学校は、都心の真ん中にあるのにバス通学をする児童がほとんどであることで知られています。

 でも本来、通学路は子どもの学びの場。友達を待ち伏せしたり、そこら中に生えている草花を観察したり虫を捕まえたりする寄り道をしたり、少し上の学年になるとこっそり買い食いしたり、もしかしたらラブレターを渡したり。大人からすると「無駄だなぁ」と思えるようなことも、大切な学びの場なんですね。ところがバスで「護送」されることで、そうした機会がすべて失われてしまいます。

 しかも、地域の大人たちとの接触もなくなるので、子どもも大人も、お互いを知らないままになってしまう。

本来、通学路は子どもの学びの場。寄り道の中にも学びがあるのです
本来、通学路は子どもの学びの場。寄り道の中にも学びがあるのです

地方にも起きている、人間関係の希薄さ問題

 実はこのバス通学問題は地方でも起きていて、統廃合によってバス通学になり、「護送」状態になる子どもがどんどん増えている。地方の場合、クルマ社会ですから別な意味で深刻です。

 なにしろお隣の家まで徒歩30分かかるということも多々あるわけで、バスで家に帰ったあと、友達と外で遊ぶということが難しくなる。地方も共働きが当たり前ですから。すると子どもたちは、家で一人でゲームをするようになる。

 地方なら豊かな外遊びができると思ったら大間違いなんです。寄り道しながらプラプラ家に帰れた時代とは異なり、今や過疎化が進むからこそ子どもたちがバスで「護送」され、孤立していく。東京のタワーマンションに住む人たちの「エレベーター内での会話禁止」と表裏一体の人間関係の希薄さで、「普通」がなくなってきてしまっているんです。

 僕の子ども時代は、住んでいる商店街のよそのお宅に預けられることも日常茶飯事。でも今は、よほど親が意識的にそういう地域密着型の場所を選んで住まなければ、ご近所づきあいもままならないでしょう。