青年団を主宰し、世界的に活躍する劇作家・演出家の平田オリザさんは、大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐など様々な場所、形で教育活動に携わっています。
 学校選びや学ぶ環境について、あるいは親の心構えなど、今の子どもたちが20年後、生き抜くための力を身に付けるために必要な「教育」について、平田オリザさんと考えていく連載。前回は入試改革がうまくいっていなくても「一流」と言われる規模の大きな大学に行かせなければと親が思い込む「強迫観念」の背景にあるものとはなにかに注目しました。
 今回は中学受験を考える親御さんに向けて、中高一貫校に通わせることの問題や、都立高校の変化について、考えていきます。

 わが家では昨年、子どもが生まれまして、来年、兵庫県の豊岡市に引っ越すことを決めました。もちろん、移住するのは仕事のことも関わっていますが、決めた理由の一つが「東京では普通に子どもを育てられなくなっている」ことです。

公立は「私立・国立中学に行けなかった人たちの中学校」

 僕は東京都目黒区駒場で生まれ育ち、私立ですが地元の駒場幼稚園に通い、その後は目黒区立駒場小学校、目黒区立第一中学校を出て、都立駒場高校に進学するという、幼稚園から高校まで地元で過ごしました。小学校からは公立校ということもあり、多様性がありましたし、地域社会とのつながりを持ちやすかった。

 これは今も同じでしょうし、東京の都心部でも小学校までは公立校に通わせるご家庭は多いでしょう。駒場小学校は僕がいたころから3クラスがいっぱいで、越境も断っているくらいです。ところが中学になると、ガクッと減ってしまう。7割から8割の子どもが中学受験をするからです。駒場小学校のお隣の小学校も各学年3クラスあるといいますが、2つの小学校出身の生徒が通うはずの目黒第一中学校は、2クラスしかありません。

 これでは、自分の子どもを地元の公立中学校に通わせることを躊躇(ちゅうちょ)する家庭が増えてもおかしくありません。公立中学校そのものが危険だから嫌というのではなく、公立中学校ならではの「普通の多様性」が求められなくなっていることが問題なのです。公立中学校が「私立・国立中学校に行けなかった人たちの中学校」という位置づけになっている可能性が高いのですから。

 さらに、電車を使うような地元を離れた学校に通うようになると、子どもも親も、地域社会との結びつきが薄れます。つまり子どもたちが地元の学校に通わなくなることで、地域社会、ひいては都市が危機的な状況に陥りかねません。

電車を使うような地元を離れた学校に通うようになると、子どもも親も、地域社会との結びつきが薄れます
電車を使うような地元を離れた学校に通うようになると、子どもも親も、地域社会との結びつきが薄れます