青年団を主宰し、世界的に活躍する劇作家・演出家の平田オリザさんは、大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐など様々な場所、形で教育活動に携わっています。
 この連載では学校選びや学ぶ環境について、あるいは親の心構えなど、今の子どもたちが20年後、生き抜くための力を身に付けるために必要な「教育」について、平田オリザさんと考えていきます。
 2020年の教育改革の影響はそこかしこに出てきていますが、そもそも教育改革とは何でしょうか。日本の子どもたちの学力は落ちているのでしょうか。

 「2020年の教育改革」についてはよく耳にすると思いますが、皆さんはどう受け止めていますか? 理解するにはまず、この20年での「教育」の変化を知る必要があります。

2020年の教育改革の始まりは、「ゆとり教育」

 文部科学省は1998年の学習指導要領改訂で、学習内容を大幅に減らしました。いわゆる「ゆとり教育」の本格導入です。

 学習指導要領は、全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするために、文科省が設けている各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準ですね。約10年ごとに改訂されていますが、このときの自ら学び、自ら考える「生きる力」の育成を標榜した「ゆとり教育」は、方向性自体は間違っていなかったと、僕は思います。時代が少し、追い付いていなかったんです。

 例えば、「総合的な学習の時間」が設けられましたが、この時間に多様な学習体験活動を子どもたちにさせるには、「地域社会との連携」がポイントになります。でも地域社会と学校など教育現場との連携が間に合っていなかった。

 ところがPISA調査(経済協力開発機構〈OECD〉が各国・地域の15歳を対象に行っている学習到達度調査)で2003年に日本の順位が急落すると、「日本版 PISA ショック」と騒がれ、学力低下だなんだと教育批判が出てきました。その結果、「基礎学力」を習得しなければと、いろんな人が言い出した。

 文科省も一枚岩ではありませんから、方針にある程度揺れがあるのは仕方がないと思います。大きな問題は、教育というのはいろんな人が口を出しやすい分野だということ。政治家でも財界人でも、ほぼ思い付きとしか思えないような、好き勝手なことを言う。それに文科省の人が、振り回されてしまう。それが、「揺れ」の根底にあると思うんです。

 でも、常識的に考えて、基礎学力は必要だけど、それだけでは駄目だということは、ゆとり教育以前にも分かっていました。だからこそ自ら学び、自ら考える「生きる力」の育成がうたわれたわけです。結果、文科省は2008年の学習指導要領改訂で
●基礎的な知識・技能
●知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
●主体的に学習に取り組む態度
を「学力の三要素」として明記。さらに2017年の学習指導要領改訂時に「主体性・多様性・協働性の向上」を打ち出し、文科省としてはこれで、「ゆとり教育か基礎学力か」という不毛な争いに、ぎりぎり決着をつける形になりました。