「学力が落ちている」は幻想

 結果、今現在、学力という点では、日本の子どもたちは優秀です。

 2015年実施のPISA調査で、「他人と協力して問題を解決する能力」では日本の平均点は552点と、OECD平均を52点も上回り、参加52カ国・地域中2位、機構加盟の32カ国中では1位になっています。数学的リテラシー(5位)、科学的リテラシー(2位)、読解力(8位)という科目別に見てもすべて10位以内に入っています。つまり、15歳の時点での初等・中等教育は、おおむね間違ってはいないということ。

 まずこの認識が必要で、一部で「学力が落ちている」と騒がれているのは、幻想にすぎません。

 ところがPISAで世界で上位に入ったとしても、47都道府県では国内の学力調査を行えば、どこかが47番目に入ります。すると47番目になった都道府県知事はヒステリックに「基礎学力が」と騒ぎ立てる。始末が悪いことに、少し頑張れば学力調査の結果はすぐに上がるんです。だから際限のない競争になってしまう。

 ここからはいろんな意見があっていいと思うのですが、僕の意見は、日本の子どもたちは、基礎学力の部分はそんなに問題ないので、今、学校で起きている「ふたこぶラクダ(「できる層」と「できない層」に二極分化)」型の下のほうの子たちをケアしたりとか、あるいは不登校の問題やいじめの問題に時間と人員を割いたりとかしたほうがいいというものです。

 冷静に考えれば、日本はPISAで上位に入っているのだから、その中の零点何ポイントかを競うために、時間や予算を費やすというのは全くナンセンス。

 重要なポイントになりますが、教育というのはトレードオフなんです。子どもの学ぶ時間は限られているから、何かをやろうとしたら何かが犠牲になるということを真剣に考えなければなりません。いろんな人が粘土細工のように、次々と「必要なこと」「すべきこと」をぺたぺた貼り付けると、学校がパニック状態になってしまいます。

子どもの学ぶ時間は限られているので、何かをやろうとしたら何かが犠牲になります
子どもの学ぶ時間は限られているので、何かをやろうとしたら何かが犠牲になります