青年団を主宰し、世界的に活躍する劇作家・演出家の平田オリザさんは、大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐などさまざまな場所、形で教育活動に携わっています。
 学校選びや学ぶ環境について、あるいは親の心構えなど、今の子どもたちが20年後、生き抜くための力を身に付けるために必要な「教育」について、平田オリザさんと考えていく連載。
 近年注目度を上げている「非認知スキル」は、以前の日本では日常の家庭生活や学校生活の中で育む環境があったと言います。その一つである「お手伝い」が、格差社会が進んでいくと富裕層の特権になってしまう可能性があると平田さんは指摘します。どういうことなのでしょうか。

経済力が低い層の非認知スキルを高めることが重要

 日本では「みんなを一律に頑張らせればなんとかなる」という風潮がまだまだあります。恐らく団塊世代を中心に、高度経済成長の成功体験があまりに強いことが影響しているのだと思います。ただこれをひとたび教育面から考えると、格差社会を実感することが増え、経済力の高い家庭ほど、学力の高い子どもが育ちやすい傾向が出てきていることは、皆さんも実感していることではないでしょうか。

 そんな中、注目されるのが「非認知スキル」です。認知スキルはいわゆる学力で、IQなどで測れる力のこと。それこそ経済力が高い家庭のほうが、塾に通わせたり通信教材を準備できたりしますので、高まる傾向があると言えます。これに対し非認知スキルはIQや学力テストなどの認知能力ではないもの全般のことで、経済力に関係なく、伸ばすことができるのではないかといわれているのです。

 実は米国では30年以上前から非認知スキルに関する調査が進んでおり、「非認知スキルを高めたほうが社会全体が安定し、社会全体のコストが低減する」といった結果も報告されるようになっています。

 日本でも注目すべき研究があります。2018年の文部科学省委託研究「平成29年度全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」(お茶の水女子大学 浜野隆教授)です。この研究では認知スキルと経済力に関して言えば、経済力の高い家庭の子どもは学力が高いという相関性があるものの、非認知スキルは関しては相関性がないことが分かってきていると述べられています。

 さらに経済力が低く、でも学力が高い一群の中には、非認知スキルが高いという相関性が予想され、社会全体の安定を考えるなら、経済力が低い層の非認知スキルを高めることが重要になってくるというわけです。

 ただ近年、非認知スキルさえ、経済力が高い家庭のほうが高めやすくなっているのではないかという説も出てきています。