DUAL8月後編特集では、「職場でのハラスメント問題」に向き合います。セクハラやパワハラは個人と個人だけの問題ではありません。企業などの組織が対処すべき問題であり、第三者の対応により被害や二次被害を食い止めたり、解決につながったりすることもあります。この記事では企業や、企業で働く人が取り組むハラスメント対策について、専門家や企業の担当者への取材を基にお伝えします。

【セクハラ・パワハラ・マタハラをなくす 特集】
(1) 7割がパワハラ被害経験 セクハラは3割「相談せず」
(2) ハラスメント許さないコミュニティ文化の作り方
(3) ハラスメント証拠なくてもまず相談 弁護士に聞く
(4) ハラスメント放置は経営にもリスク 企業の取り組み ←今回はココ
(5) 「親から子へのハラスメント」も根っこは同じ

ハラスメントを経営課題として認識する必要

 セクハラやパワハラなどに関するニュースを耳にして「わが社はちゃんと対策できているだろうか」と不安になる企業も多いかもしれません。実際のところ、ハラスメント問題に企業はどう対応しているのでしょうか。

・会社内の相談窓口はあり、注意喚起はされているが根本的な解決には至っていない。あまりにもひどいケースは転勤等の対処もあるが、日常的に発生していることに対し会社の動きは遅いと感じる。

・相談窓口や研修などの取り組みはあるが、機能していない、効果は感じない。

 読者アンケートでも、このような回答が目立ちました。

 「ハラスメントを経営課題として認識することが必要です。セクハラ・パワハラなどが放置されている企業は、徐々にむしばまれ弱っていきます」と、五味祐子弁護士も指摘します。

 そもそもハラスメントに対して、企業は対処する義務があるのでしょうか。企業内のハラスメントはいつごろから把握され、対策されるようになったのでしょうか。

 「セクシュアル・ハラスメントは30年前に流行語大賞になるなど、歴史は古く、当社も以前から相談・研修などを請け負っていました。そのなかで、企業内でのトラブルによる、男性からのメンタルヘルスなどの相談も多くなっていることに気付きました。確かに企業内にはセクシュアルな問題以外にも、性別を問わない嫌がらせもあるということで、当社が『パワー・ハラスメント』という言葉をつくったのが2001年です」

 そう話すのは、クオレ・シー・キューブ執行役員の稲尾和泉さん。同社は約30年、企業のメンタルヘルス対策やハラスメント対策などを請け負ってきました。稲尾さんもハラスメントの研修を企画したり、実際に様々な企業に赴き、研修を担当したりしています。

 「セクハラへの対策は、男女雇用機会均等法の2007年の改正で、雇用管理上の努力義務が措置義務になるなど、企業の責任が強化されてきました。措置義務とは問題解決の責任が組織にあり、相談窓口などを設置する必要がある、ということです。特にセクハラやマタハラは、労働局などに訴えがあり、是正勧告があったのに対策などが不十分だと、罰金や企業名の公表などの罰則があります」

 稲尾さんによるとパワハラには現在のところ同様の義務はありませんが、検討はされ始めている、とのこと。つまり、ハラスメントに対する企業の責任は年々大きくなっているといえます。

 「昨年は#metoo 運動の波が日本にも入ってきました。しかし盛り上がりは他国に比べるといまいち。その理由は『被害を受けた人を守ろう』という周りの支援がまだ少ないことだと思います」

 では、どのような対応をすれば、ハラスメントを減らすことができるのでしょうか。

ハラスメントに対する企業の責任は年々大きくなっている
ハラスメントに対する企業の責任は年々大きくなっている
<次のページからの内容>
● 「とりあえず一度研修を」では効果は期待できない
● ハラスメント対策とダイバーシティーの密接な関係
● 人は『公正世界仮説』を持っている
● 誰でも二次被害の加害者になりうる
● セクハラを見かけたら?相談を受けたら?
● 部下から「パワハラです」と言われたら…
● 窓口や研修拡充で、相談数が急増した企業