職場のハラスメント、主にパワハラ、セクハラに向き合っている今特集。最終回では、親子の間でのハラスメントを取り上げます。親子間でハラスメント?と思うかもしれませんね。でも、職場の上下関係を親子関係に置き換えて考えるとどうでしょう。厚生労働省ではパワハラについて次のように定義しています。

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

「地位や優位性を背景に精神的・身体的苦痛を与える……」。残念なことですが、親子間でも、こんなことが起こっているのではないでしょうか。そして、家庭という閉鎖的な空間の中でハラスメントが起きたとき、それは職場よりも深刻なのでは? 編集部はこのように考え、教育評論家の親野智可等先生に親子間のハラスメントについて、お聞きしました。

【セクハラ・パワハラ・マタハラをなくす 特集 】
(1) 7割がパワハラ被害経験 セクハラは3割「相談せず」
(2) ハラスメント許さないコミュニティ文化の作り方
(3) ハラスメント証拠なくてもまず相談 弁護士に聞く
(4) ハラスメント放置は経営にもリスク 企業の取り組み
(5) 「親から子へのハラスメント」も根っこは同じ ←今回はココ

親子間ハラスメントは存在する 母親は特に注意!

「親はストレスが子どもに向かないように気を付けて」と親野智可等先生
「親はストレスが子どもに向かないように気を付けて」と親野智可等先生

 昨今相次ぐハラスメント報道に、日経デュアル読者の皆さんも、「私の職場でもあるかも」と敏感になっていると思います。しかし、わが子に対してはどうでしょうか。

 地位や優位性を背景に、弱い者に対して、苦痛を与えるハラスメントは家庭でも起こり得ます。家庭におけるハラスメントの9割は親のストレス発散です。子どもに向かってイライラを発散するとき、子どもは単に引き金を引いただけ。高いところから低いところへ水が流れるように、親から子に向かってストレスが発散されているのです。

 ドキッとしましたか? それとも、「まさか、うちに限って」と思いましたか? 「うちに限って」と思った方は、親子間ハラスメントについて、無自覚になっているかもしれません。お母さんたちは無自覚になりやすい傾向があるので、より注意が必要です。

子どもは自分の一部 だから子の痛みに気づかない

 母親は、十月十日を共に過ごし産み落としたわが子を自分の一部のように感じがちです。そこには深い愛情とともに、遠慮がなくなってしまうというデメリットがあります。すると、「子どものため」と言いながらしつけをしているときにも、子どもが感じているつらさについては無自覚になってしまうのです。自分で自分の腕をつねっても痛くないのと同じです。

 お父さんも注意が必要です。日本ではよく子どもを「授かりもの」と言いますね。もらったもの=自分のものという価値観が無意識にあるので、厳し過ぎるしつけをしたり、他人には言えないような言葉を投げつけてしまいます。これこそハラスメントです。

 子どもは決して親が「もらった」ものではありません。人生で一番大切な時期を預からせてもらっているのだという意識を持つことでハラスメントは避けられると思います。

 先ほど、親子間ストレスの9割は親のストレスが原因とお話ししました。親はストレスにのみ込まれないように、自分をよく観察してください。自分自身を客観視して、コントロールする。「メタ認知能力」の出番です。そして、ストレスのエネルギーを怒りとして子どもにぶつけるのではなく、別の形に発散させましょう。

 誰しもストレスがたまってしまうときはあります。子どもでもそうです。私が小学校で教えていたときも、天気が悪くて外遊びができない日などは、授業時間の最後の数分でストレス解消をしていました。「みんなで怒ってみよう! ムカムカムカ!」と怖い顔をして大声を出したり、「今度は泣いてみよう エーンエーン」「次は笑ってみよう ワハハハ」と大きな声と表情を出させるのです。子どもたちは、すっきりとして、休み時間を迎えることができるので、子ども同士の衝突などを予防することができていました。

 次ページではおすすめのストレス解消法を紹介します。

イメージカット
イメージカット
<次のページからの内容>
● おすすめストレス解消法
● 「犬語でけんか」で親子でストレス発散
● 「人に迷惑をかけないように」という目標にもハラスメントの芽がある
● 子どもに言ってはいけない3つのこと
● ハラスメント言葉を言わずに済む工夫をしよう
● 親の期待の押し付けもハラスメントになる