「セクシャル・ハラスメント」という言葉が新語・流行語大賞の新語部門を受賞したのは、今から30年前の1989年。一方、「パワーハラスメント」という言葉は2001年、東京の民間会社代表らがつくり、その後、公的機関やメディアなども使うようになり、概念が広まっていきました。さらにここ数年で、職場において妊婦に対して行われる嫌がらせを指す言葉「マタニティーハラスメント」も一般的になっています。

 昨年、世界的に「#MeToo」(セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する運動)が起こり、今年に入ってからは、国内でセクハラ・パワハラなどに関する「事件」が途絶えません。

 DUAL8月後編特集では、この「職場でのハラスメント問題」に向き合います。セクハラやパワハラは個人と個人だけの問題ではありません。企業などの組織が対処すべき問題であり、第三者の対応により被害や二次被害を食い止めたり、解決につながったりすることもあります。

 特集第2回では、読者アンケートの結果を踏まえ、ハラスメントを減らすためにどんなことができるのか、ハラスメントに遭った本人はもちろん、周囲の人が対応ができるのかを考えていきます。企業のコンプライアンスやリスクマネジメントを専門とし、ハラスメント防止体制の構築や運用への助言を行っている弁護士の五味祐子さん、草の根団体「ちゃぶ台返し女子アクション」の共同代表で性と性暴力を取り巻く文化の変革に取り組んでいる大澤祥子さんにお話を聞きました。

【セクハラ・パワハラ・マタハラをなくす 特集 】
(1) 7割がパワハラ被害経験 セクハラは3割「相談せず」
(2) ハラスメント許さないコミュニティ文化の作り方く ←今回はココ
(3) ハラスメント証拠なくてもまず相談 弁護士に聞く
(4) ハラスメント放置は経営にもリスク 企業の取り組み
(5) 「親から子へのハラスメント」も根っこは同じ

「職場でのセクハラ・パワハラに関するアンケート」(2018/7/3~7/31実施)の回答者は141人。女性83%、男性17%、回答者の平均年齢は40.2歳でした。78.0%が正社員と回答しています。

ハラスメントのコストを負担していた側が声を上げ始め、問題が顕在化

編集部(以下、――) 「#MeToo」ムーブメントや大学運動部の問題の影響で、最近はハラスメントへの意識が向上しています。読者アンケートでは、ハラスメントを気にして、言いたいことが言いにくくなったという声もありました。

大澤さん(以下、敬称略) 今まで言えていたことがハラスメントとされ言えなくなってしまったというのは、これまで女性やマイノリティ側が“言いづらさのコスト”を負担していたからなんです

―― 言われる側、される側ががまんをしていたから、言う側、する側は気遣いなく過ごせていたということですね。

大澤 それが今、ようやく変わってきていると感じます。言われる側、権力関係の下の側が「こういう言われ方はいやだ、尊重されていない」という声を上げ始めています。上に立つ人は意識して自身の言動に責任を持つというように変わっていかなければならないでしょう。

五味さん(以下、敬称略) 今はまさにその過渡期。ハラスメント防止体制の構築や運用を経営課題として最優先で進める企業が増えています。

―― とはいえ、日経DUALの読者アンケートではセクハラに遭ったことがある人は56%、パワハラに遭ったことがある人は70.2%に上っています。半数以上の人が職場で何らかのハラスメントを受けたことがあるのです。

 ハラスメントを受けたときに誰にも相談しなかった人は、パワハラでは18.2%だったのに対し、セクハラでは31.6%と、パワハラの1.7倍に上りました。セクハラを相談しない人が多い背景にはどのようなことがあるのでしょうか?

ハラスメントを受けた側が責められる二次被害

大澤 被害者は100%悪くないのにセクハラに遭ったというと、「なんではっきりイヤと断らなかったの」「なんで逃げなかったの」と責められることがあるとよく聞きます。

 「そんな服を着ているからでは?」「隙があったのでは?」

 相談を受けた側はこんなことを無意識に言ってしまいがちですが、この一言が被害者を更に苦しめたり、SOSを出しにくくさせてしまいます。言うほうには悪意はなくても、被害者は自分が悪かったのだと責められたように感じ、さらに心が傷ついてしまう。これもハラスメントの二次被害のひとつになるのです。

企業のハラスメント対策のサポートや外部相談窓口業務も務める弁護士の五味祐子さん(左)と、「ちゃぶ台返し女子アクション」で女性の生きづらさに対して声を上げ、社会を変えるムーブメントを起こしている大澤祥子さん(右)
企業のハラスメント対策のサポートや外部相談窓口業務も務める弁護士の五味祐子さん(左)と、「ちゃぶ台返し女子アクション」で女性の生きづらさに対して声を上げ、社会を変えるムーブメントを起こしている大澤祥子さん(右)

―― アンケートにはこんなコメントもありました。

・セクハラの相談をした際、「セクハラされたお前が悪い」と責められたことでその上司とその他男性を信頼できなくなりました。

・私は雇用されている側なので、上司のハラスメントには笑ったり普通にかわしたりしてしまう。

五味 セクハラは上司と部下、先輩と後輩、取引先との関係など上下関係において行われます。上司と部下という関係性や、同じ職場で働くという関係性は、その後も続くので、仕事がしにくくなることをおそれて、職場ではなかなか相談できないのが現状です

―― アンケートからは「そのぐらい耐えろ」と言われたという声も多く聞かれました。