日経DUALにて「矢沢心と魔裟斗の『諦めない不妊治療』」を連載、書籍『夫婦で歩んだ不妊治療』を上梓した矢沢心さん。その矢沢さんが「自分の不妊治療経験を伝えて、お母さんになりたい人を応援したい」と企画し、不妊治療で悩んでいる女性の“心のもやもや”が晴れるような場を目指して不定期に開催している「お茶会」にお邪魔しました。

 お茶会は「病院の選び方」「妊活中の気持ちの持ち方」「パートナーとの関係」「自分を褒めてあげる」という4つのテーマで進行。リポート第2弾は「妊活中の心の支え方」について、3回にわたってお伝えします。今回は上編に続く中編です。

【お茶会出席者のプロフィール】

Eさん
41歳。パートで勤務。37歳で結婚、38歳のときに自然妊娠したが7週で稽留(けいりゅう)流産(胎児が死亡してしまっていて、妊娠が継続できない状態になっても、まだ出産・腹痛などの症状がなく、胎児が子宮内にとどまっている状態のこと)。その後も自然妊娠を目指したが授からず、39歳で不妊治療クリニックを受診。医師が勧める通り、タイミング法から人工授精、体外受精にステップアップ。体外受精に2回トライしたが授からなかったため、現在は人工授精にステップダウンしている。

Aさん
35歳。フルタイム正社員で勤務。不妊治療を始めてから2年。体外受精に4回トライしたが妊娠しなかったため、一度治療をお休みした今年の春に自然妊娠。しかし8週で流産。身体的にも精神的にもなかなか前向きになれず、不安な気持ちで日々を過ごしている。

Yさん
30歳。26歳で結婚し、すぐに自己流で妊活を始めたが2年間授からなかったため、不妊専門クリニックを受診。片側の卵管閉塞が発覚し、手術のため転院。その後人工授精に6回トライするが妊娠に至らず、昨年末から体外受精にステップアップ。1回目で着床したが胎嚢確認前に流産、2回目は着床しなかったため、フルタイム正社員で勤務していた会社を退職し、治療に専念することを決断した。

友人や同僚の妊娠を素直に喜べなくて心苦しい

矢沢心さん(以下、矢沢) Yさんは、ご友人や職場の同僚との人間関係にも悩まれていたそうですね。

Yさん 私は26歳で結婚したので、比較的早かったほうなのですが、この2~3年で結婚する友人が増えてきたんです。それで、結婚と同時に授かったとか、職場でも「最近見ないな」と思っていたら、実はつわりで会社を休んでいたといった話をよく聞くようになりました。

 おめでたいことですし、自分が妊活を意識する前までは素直に「おめでとう。良かったね」と心から思えていたのに、今はそういう気持ちが持てなくなってしまって…

Aさん 分かります。自分がなかなか授からない状況にあると、他の人のおめでたを素直に喜べないという気持ちは、どうしても生まれてくるものですよね。

Yさん 不妊治療をしていると、月に10日以上通院しなくちゃいけなかったり、急に休んだりしなくちゃいけないので、出勤できる日はできるだけ仕事をこなそうと遅くまで残業したり、朝早く出勤したりしていました。だからいつも寝不足でしたし、家に帰ってから食事を作れないことも多かったんです。

 一方で、同じ会社の妊娠した人たちは時差通勤を利用していて、朝はゆっくり出勤して帰りも少し早く帰ったりしている。それなのに、たまに話をすると「すごく眠い」とボヤいていたりするんです。もちろんつわりの症状の一種だということは分かっていますが、「私のほうが家も遠くて、あなたが起きた時間くらいにはもう会社に来ているから、もっと眠いはずなんだけど」と思ってしまったり…。

矢沢 妊活中は、ささいなことも気になりますよね。

Yさん 妊娠した人が「こんなに早く子どもはつくりたくなかったんだけど」と言うのを聞いて「欲しくてもできない人がいるのに、何を言っているんだろう」と思ったり、妊活していることを話していない同僚から「子ども、いつつくるの? 結婚して結構経つよね」と言われて心にグサッと刺さったり。ちょっとした物言いにいちいち引っかかってしまいます。

 先日も、退職した会社の同期にたまたま会う機会があって、そのとき会社に9月と11月に出産する予定の人がいると聞いたんです。私が体外受精の1回目で流産したときと、2回目でダメだったときにもし順調にいっていれば、ちょうどそのくらいの時期に出産していたんだろうな、と思わず想像してしまって。もちろん全然関係ないと分かっているんですけど、落ち込んでしまいました。こういう心の不安定さは、自分の中で課題だなと思っています。

矢沢 色々考え過ぎてしまうんですね。

Yさん 仕事も辞めたし、「前向きに妊活を頑張ろう」と思っているのに、ふとしたときに色々なことを思い出して苦しくなってしまうんです。

矢沢 私は「おめでとうと言えない」という自分の気持ちに正直でいる勇気も大事かなと思います。おめでたいことって、皆に祝福してもらえると思うんですよね。その人は、もう妊娠しただけでハッピーなんだから、それでOK。

 だから、「私が祝福しなくてもいいじゃん」と思ってもいいんじゃないでしょうか。だって、自分が「おめでとう」と素直には思えないことに対して無理に思い込もうとすると、ストレスになっちゃいますよね。ただでさえ妊活をしているというストレスが多い生活の中で、さらにストレスをため込んだら、体にも心にも悪影響が出ると思います。

 だから、そんなふうに自分のことは責めなくていい。そういう気持ちを自分だけが守ってあげて、パートナーと楽しく過ごしてください。そういうときこそ、パートナーに寄り添ってもらってくださいね。

つらいときこそ、夫婦で寄り添って
つらいときこそ、夫婦で寄り添って

(取材・文/荒木晶子 イメージカット/iStock)

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矢沢心
女優・タレント
矢沢心 1981年東京生まれ。1997年映画でデビュー。夫である魔裟斗さんは、日本人初のK-1世界王者として知られる。著書に『ベビ待ちゴコロの支え方』(主婦の友社)など。日々の暮らしをつづったオフィシャルブログも人気。
「コロコロこころ」https://ameblo.jp/yazawa-shin/