グローバル社会が叫ばれて久しく、AIが注目を集める現代。子どもたちが大人になるころに必要とされる能力は、親の世代とは全く異なるといわれています。足元を見れば2020年の教育改革も迫る中、「わが子が将来活躍できるようにするには、今、何をすればいいのだろうか?」と悩むパパ・ママも多いことでしょう。世の中には情報があふれ、身近な人の話を聞いて「○歳までにあれをしなければ!」と焦燥感に駆られることもあるかもしれません。

 以前、日経DUALでは「“教えない”早期教育」という特集を掲載し、大きな反響を呼びました。今回はその第2弾として、大事なわが子を未来に役立つ人材に育てるために大切なことは何か、未就学児の段階で親が本来心がけるべきことは何かということに迫ります。キーワードは「遺伝と環境」「親の愛情」「幼児期の教育」「睡眠」「運動あそび」。それぞれの切り口から、「本当に必要な乳幼児教育」の在り方について考えていきます。

 第5回は、発達脳科学を専門とし「脳は生活で育てられる」を提唱している成田奈緒子文教大学教授を訪問。睡眠が子どもの脳に与える影響やきちんと睡眠を取るためのリズムの整え方、さらに成田さんご自身の親子の医学部合格体験について伺いました。

【未来型人材に“自ら育つ”早期教育特集】
第1回 本当に効果ある早期教育は? 子どもは遊びから学ぶ
第2回 子どもの能力は遺伝と環境の“掛け算”で決まる
第3回 「親の愛情」次第で脳の成長は大きく変わる
第4回 グローバルで通用する能力「6Cs」を育む幼児教育
第5回 睡眠第一で医学部合格 “後伸び”する子の育て方 ←今回はココ
第6回 脳を“超回復”させる最強のメソッド「運動あそび」

「からだの脳」を育てなければ「お利口さんの脳」「こころの脳」は育たない

文教大学教授の成田奈緒子さん
文教大学教授の成田奈緒子さん

 「今の子どもたちは脳の前頭葉がちゃんと育っていない、いわば“思考できない脳”になっていることが多いと感じます」と、成田奈緒子先生は憂えます。

 「自ら考えて行動したり、自ら学んだりする子どもになるには、前頭葉がきちんと育っていることが大前提となります。前頭葉は思考に関わる部分で、賢さや思いやりなどはもちろん、企画をつくるなどの将来的な仕事のパフォーマンスにもこの前頭葉の働きが大きく影響します。しかし、前頭葉は10歳以降にしか育たない部位なんです」

 脳の中心部には呼吸などをコントロールし、生命を維持する「脳幹」があり、その周りには寝る、起きる、食べるといった基本的な生活に関わることや、体を動かすことをつかさどる「大脳辺縁系」と呼ばれる部分があります。ここを成田先生は「からだの脳」と名付けています。

 「生まれたばかりの赤ちゃんがやがて寝返りをし、お座りをし、歩くようになり、自分でスプーンを持って食事をするようになるのは、この『からだの脳』が発達していくからです。ここは5歳ごろまでかけて育ちます。脳を家に例えると、土台となる1階部分に当たるのがこのからだの脳です」

 その外側にあるのが「大脳新皮質」。大脳新皮質は言語や思考など人間らしい活動を担う部分で、ここを発達させたことで人間は知性を持ち、今日の繁栄を築いてきました。思考に関わる前頭葉も大脳新皮質の一部です。

 「ここはいわば『お利口さんの脳』。6歳ごろから14歳ごろまでを中心に、1~18歳ごろまで長い時間をかけて育ちます。『からだの脳』が家の1階なら、こちらは家の2階に当たります

 そして、「からだの脳」と「お利口さんの脳」をつなぐ役割を果たすのが「こころの脳」だと成田先生は定義しています。

 「人間は、『からだの脳』で起こった喜怒哀楽の感情をそのまま行動に移すのではなく、『お利口さんの脳』の一部である前頭葉につないで、様々な思考を重ねたうえで判断を下し、行動します。このつながりとなるのが『こころの脳』です。『こころの脳』の中心を担うのは前頭葉で、“注意や集中”“短期記憶”“計画・創造”などの高度な機能を備えています。ここは家に例えると階段や電線などに当たります

 当たり前のことですが、家は1階の上に2階をつくります。1階部分をしっかりつくらずに2階だけ立派につくろうとしても、バランスが悪くグラグラして、地震が来たらすぐに倒れてしまうでしょう。

 「家を建てるのと同じように、脳にも発達の順番があります。『からだの脳』を鍛えていないまま『お利口さんの脳』を鍛えようとしても、うまく働きませんし、そのようなきちんと育っていない脳では、『こころの脳』もフル活動できないのです」

 つまり、小学校入学前の未就学期に英語を習わせたり、計算をさせたりするのは無理があるばかりでなく、成長してから害を及ぼすことにもなりかねないのです。

 「動物は、朝日が昇ったら起きて活動し、おなかが空いたら餌を探しに行き、陽が沈んで暗くなったら敵に襲われない安全な場所で寝るという生活をしています。そうでなければ、生き延びることができないからです。人間も動物であり、文明が築かれる前はそういう生活をしていました。今の子どもたちも、親に言われなくても、眠くなったら寝る、朝になったら起きる、起きたら空腹感を覚えるというような脳をつくっていかなければ、どんなに勉強ができても生きていくことができません」

 それでは、家の1階部分にあたる「からだの脳」をきちんとつくるには、どうしたらいいのでしょうか。「いちばん大切なことは、必要な睡眠をきちんととること」と成田さんは力説します。

<次のページからの内容>
●脳の土台を作る極意とは?
●睡眠時間をしっかり取るには「寝つき」より「早起き」から始める
●年齢別、望ましい睡眠時間
●3歳を過ぎたら昼寝はいらない
●夜寝るときは部屋を真っ暗にすることが重要
●抱きしめて安心させると子どもは眠りにつきやすい
●入浴時間は就寝時間の1時間以上前が原則
●成田先生親子は夜8時に寝て現役で医学部に合格!