グローバル社会が叫ばれて久しく、AIが注目を集める現代。現在の子どもたちが大人になるころに必要とされる能力は、親の世代とは全く異なるといわれています。足元を見れば2020年の教育改革も迫る中、「子どもが将来活躍できるようにするには、今、何をすればいいのだろうか?」と悩むパパ・ママも多いことでしょう。世の中には情報があふれ、身近な人の話を聞いて「○歳までにあれをしなければ!」と焦燥感に駆られることもあるかもしれません。

 以前、日経DUALでは「“教えない”早期教育」という特集を掲載し、大きな反響を呼びました。今回はその第2弾として、わが子を未来に役立つ人材に育てるために大切なことは何か、未就学児の段階で親が本来心がけるべきことは何かということに迫ります。キーワードは「遺伝と環境」「親の愛情」「幼児期の教育」「睡眠」「運動あそび」。それぞれの切り口から、「本当に必要な乳幼児教育」の在り方について考えていきます。

【未来型人材に“自ら育つ”早期教育特集】
第1回 本当に効果ある早期教育は? 子どもは遊びから学ぶ ←今回はココ
第2回 子どもの能力は遺伝と環境の“掛け算”で決まる
第3回 「親の愛情」次第で脳の成長は大きく変わる
第4回 グローバルで通用する能力「6Cs」を育む幼児教育
第5回 睡眠第一で医学部合格 “後伸び”する子の育て方
第6回 脳を“超回復”させる最強のメソッド「運動あそび」

周りの子たちに遅れてしまう――早期教育のワナ

 「赤ちゃんから始める英語教育」「○歳までに決まる子どもの脳」――。

 そんな子どもの早期教育や知育をあおる情報や商品が世の中にあふれています。皆さんの周りでも、「あの子は赤ちゃんのころから英語教室に通っているらしい」「あの子は人気の知育教室に行っているみたいよ」なんて声が聞こえることもあるのではないでしょうか。

 うちも早く始めないと、周りの子どもたちについていけなくなってしまう――。

 そんな焦燥感を覚えるのは必然ともいえるでしょう。しかし、そういった早期教育は、本当に効果のあるものなのでしょうか?

 「ちまたにあふれる脳育などの早期教育、知育玩具、そういった類いのものはほとんど効果はないと断言できます」

 こう語るのは、慶應義塾大学環境情報学部教授で言語心理学者の今井むつみ先生です。今井先生は昨年、米国の学習科学・発達心理学の第一人者であるキャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフの書籍『科学が教える、子育て成功への道』(扶桑社)の日本語訳も手掛けました。

 「キャシーさんとロバータさんは私の数十年来の研究仲間です。彼らは“遊びこそが子どもにとって最高の学習ツールである”と訴えています。私も全く同感で、むしろ早期教育は子どもたちが遊ぶ時間を阻害するという意味で、効果がないどころか弊害のほうが大きいとすら考えています」(今井先生)

 行動遺伝学の第一人者として知られる慶應義塾大学文学部教授の安藤寿康先生も、「早期教育は一過性の効果しか期待できません」と語ります。

 「0~6歳の乳幼児期は遺伝よりも家庭環境の影響が色濃く出る時期で、子どもは吸収力も高いため、例えば英語学習をさせればみるみる身に付けるように見えることもあります。しかし、中長期的に見ればその効果は一時的なものにすぎず、年を重ねるにつれて遺伝的素養の影響が強く出るようになっていきます。ずっと英語学習を続けるような環境が維持できればそれなりの効果も期待できるかもしれませんが、未就学期にやっただけでその効果が一生続くようなことはあり得ません

 では、未就学期の子どもに親がしてあげられることは何もないのでしょうか?

 そんなことはありません。この時期の子どもに本当に必要な乳幼児教育はあります。この特集では、行動遺伝学、モンテッソーリ教育、発達心理学、小児科医学、運動生化学それぞれの専門家にお聞きして、乳幼児期の子どもに対する親の関わり方がどうあるべきかを明らかにしていきます。

<次のページからの内容>
● 日本の「教育改革」の方向性はグローバルと歩調が合っている
● 日々変化する社会の中で自ら学び、適応する人間こそが“未来型人材”
● 大人は直接答えや解決法を示さず、適切にガイドするにとどめるのが最高の教育であり、学び