日本の「教育改革」の方向性はグローバルと歩調が合っている

 折しも、日本の教育も2020年に大学入試改革を含む「教育改革」を迎えます。その骨子は、変化の激しいこの時代で活躍できる子どもたちを育成すること。これからは「自分で考え、判断し、実際の社会で役立てることのできる人材」が求められるとしています。

 具体的には、大学入試センター試験が「大学入学共通テスト」へ変更。マークシート方式だったものに記述式問題が導入され、英語も従来の「聞く」「読む」だけでなく、「話す」「書く」も加えた4技能が評価されることになります。

 この教育改革の流れ自体は、グローバルの主流と歩調を合わせたものであると、今井先生は評価します。

 「実はアメリカなどでも、知識中心の詰め込み教育が行われてきた背景があり、その反省が行われています。それこそアメリカ人の富裕層の親は、子どもをハーバード大などのトップクラスの大学に入れるために、早期教育や高価な知育玩具をこぞって求めるなど、日本の学歴志向をさらに拡大したような状態になっていました。

 一方で、フィンランド、カナダなどの一部の進んだ国では、子どもの創造性を伸ばし、新しい問題に立ち向かう能力を育てるための教育改革が行われています。これらの能力は日本や欧米だけに限らず世界中で共通して必要とされるスキルとみなされており、日本の教育改革の方向性も基本的にはこの潮流に乗ったものです

 ざっくりまとめてしまうと、「変化の激しい社会の中で、必要な技能や知識、考え方を自分で見極め、自ら学んで適応していくことのできる人間」を育成することがグローバルで求められており、まさにこれこそが21世紀に活躍できる“未来型人材”ということができるでしょう。

 子どもたちをそんな“未来型人材”に育てるために、親にできることは何でしょうか。それは、何かを「覚えさせる」ために手取り足取り教えるのではなく、子どもが自ら考え、判断し、行動できるような環境を用意し、その中で子どもを思い切り遊ばせることです。そのために親は、子どもとしっかりと向き合い、その好き嫌いや志向性をよく観察し、見極める必要があります。

 「子どもにすべて好き勝手にさせ、放置するのではなく、大人は一歩離れたところから適切にガイドしてあげること。これが最も効果のある教育であり、学びなのです

 今井先生はこう語ります。そのための具体的なノウハウや理論については、次回以降、様々な切り口で紹介していきます。

(取材・文/日経DUAL編集部 田中裕康 イメージカット/iStock)

今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知心理学、発達心理学、言語心理学。1989年、慶応義塾大学大学院博士課程単位取得退学。1994年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2006年より現職。著書に『学びとは何か――<探究人になるために>』『ことばと思考』(いずれも岩波新書)など。訳書に『科学が教える、子育て成功への道』(扶桑社)。
安藤寿康
慶應義塾大学文学部教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学。慶應義塾大学文学部卒業、同大学大学院社会学研究科博士課程修了。双生児における遺伝と環境が認知能力やパーソナリティーに及ぼす影響を研究。『遺伝子の不都合な真実』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)など、著書多数。