グローバル社会が叫ばれて久しく、AIが注目を集める現代。子どもたちが大人になるころに必要とされる能力は、親の世代とは全く異なるといわれています。足元を見れば2020年の教育改革も迫る中、「わが子が将来活躍できるようにするには、今、何をすればいいのだろうか?」と悩むパパ・ママも多いことでしょう。世の中には情報があふれ、身近な人の話を聞いて「○歳までにあれをしなければ!」と焦燥感に駆られることもあるかもしれません。

 以前、日経DUALでは「“教えない”早期教育」という特集を掲載し、大きな反響を呼びました。今回はその第2弾として、大事なわが子を未来に役立つ人材に育てるために大切なことは何か、未就学児の段階で親が本来心がけるべきことは何かということに迫ります。キーワードは「遺伝と環境」「親の愛情」「幼児期の教育」「睡眠」「運動あそび」。それぞれの切り口から、「本当に必要な乳幼児教育」の在り方について考えていきます。

 第2回は行動遺伝学の第一人者である慶應義塾大学文学部教授の安藤寿康先生に、子どもの能力と遺伝の関係、才能を花開かせるために必要な環境づくりなどについて伺いました。

【未来型人材に“自ら育つ”早期教育特集】
第1回 本当に効果ある早期教育は? 子どもは遊びから学ぶ
第2回 子どもの能力は遺伝と環境の“掛け算”で決まる ←今回はココ
第3回 「親の愛情」次第で脳の成長は大きく変わる
第4回 グローバルで通用する能力「6Cs」を育む幼児教育
第5回 睡眠第一で医学部合格 “後伸び”する子の育て方
第6回 脳を“超回復”させる最強のメソッド「運動あそび」

早期教育の効果は一過性のものにすぎない

 「小さいうちに脳を活性化させないと、成長してからではリカバリーできない」といった話は、育児中のパパ・ママであれば一度は聞いたことがあるでしょう。これは逆に考えれば、「小さいうちに脳を活性化させておくと、その効果は成長後にもずっと続いていく」ということになります。

 しかし、人間は父母からの遺伝子を受け継いで生まれてくる以上、遺伝の影響を受けることは必然です。子どもの将来に関わる知性や知能はどの程度遺伝し、どのように現れてくるものなのでしょうか。

 「世界中で進められた一卵性双生児と二卵性双生児の類似性を比較した研究では、知的能力を測るIQは、17~18歳ごろに向かってだんだんと遺伝の影響が大きくなっていくことが分かっています。成長とともに脳のシナプスの結合が増え続けていき、1人で行動する時間が増えていくにつれて、遺伝的な個人差が現れてくるのです。つまり、0~6歳ごろまでは遺伝の影響はまだそれほど見られず、家庭環境の影響が大きいといえます」

 慶應義塾大学文学部教授で行動遺伝学の第一人者である安藤寿康先生はそう説明します。そのような話を聞くと、「やっぱり早いうちに子どもに英語などを習わせておいたほうがいいのか」と思うかもしれませんが、安藤先生はこう続けます。

 「乳幼児期は家庭環境の影響が強いため、親が教育熱心で語学などの早期教育をした場合、すぐに結果が出るように見えます。しかし、行動遺伝学では、しつけや親からの働きかけなどの環境の影響は、短期的には効果が出ても一生の宝物のように続くものではないというデータが出ています。子どものころは家庭環境の影響を受けやすいぶん、その効果も環境が変われば変わってしまう、メッキのように剥がれる可能性があるものなのです」

 親が頑張って環境を維持し続け、子どももそれに応えられれば効果が持続する可能性もありますが、子どもは成長するにつれて家庭以外の環境にも身を置くようになります。そのすべてを親が整えられるものではありません。

 「子どもの将来のために何ができるか」と真剣に考えているパパ・ママにとっては、「遺伝の影響が大きい」というのは、ちょっとガッカリする話かもしれません。

 しかし、そもそも「遺伝」とはどういうものなのでしょうか。安藤先生は、「親の特徴がそのまま子どもに引き継がれると考えるのは、よくある誤解です」と指摘します。

<次のページからの内容>
●「トンビが鷹を産む」ことも「鷹がトンビを産む」こともある
●スポーツも学力も遺伝がすべてではないが、努力だけで何でもできるわけでもない
●遺伝と環境が結びついたときに才能は発現する
●習い事をたくさんしたり、特別な先生に出会ったりしなければ才能は開花しないもの?
●子どもの“好き”には遺伝的な理由がある
●収入も20~40%程度遺伝の影響がある
●親子共に自然体で“好き”を楽しむことが子どもの能力開発につながる