駐夫同士ではスムーズに話せた子ども絡みのネタが、どうも駐妻とはかみ合いませんでした。おそらく、男子目線と女子目線の違いもあるのだと思います。しかし、そんなことばかり言っていられません。親同士の関係が悪いと、子どもの交友関係に影響しかねないということにも、ある時点で気づきました。それからは「働いていた自分」の兜を一旦脱ぎ去り、一人の父親になろうと頑張っているつもりです。

米国では主夫は「あり」なのか

 こちらに来てから、日本人だけでなく、米国人やヒスパニック系、アジア系の人々と話す機会も日に日に増しています。自己紹介では、名前の後に「I am a househusband」と自ら積極的に名乗っていますが、相手の反応はびっくりするほど一様です。驚きや批判を含んだものではなく、好意的なのです。

 妻の会社が補助してくれることもあり、マンハッタンの英会話学校に転居直後から通っています。大半が大学院を修了している米国人の講師は、男女問わず、私を記者だと知ったうえで「ものすごく幅が広がる経験になるに違いない」「帰国したら、今までにない視点で記事が書けるようになるよ」「主夫なんて、こっちは普通。キャリア形成上、プラスになる」と背中を押してくれます。

 家族をとにかく大切にする米国人だけの反応かと思えば、そんなことはなく、米国在住の他国籍人も同様です。日本では、特に50代以上の男性から興味本位で「家事・育児なんて簡単だろ。昼間、何するの」「働かないで、ヒモになるのか」などの質問や言葉を浴びせられることがありましたが、渡米後はこれまでのところありません。

 妻も米国人同僚に私のことを話すと「仕事を辞めずに、海外でstay-at-home dadになれるなんて、日本には素晴らしい制度があるのね」と言われるそうです。

 平日の昼間、マンハッタンを歩いていると、ベビーカーを押している同世代のパパをよく見かけます。ネット上には「New York City Dads Meetup Group」というサイトがあり、かなり前に登録は済ませました。まだ参加できていませんが、主夫も含めた父親たちが子連れで動物園や博物館に行くなどのイベントが毎週開催されています。

「キャリアを中断して、付いてきてやった」感をまだ残している

 しかし、これはひょっとしたら、多民族国家の米国でも、とりわけ数多くの人種が集い、多様な価値観が生み出されているNYだからなのかもしれません。家族観やジェンダー意識などに関して、伝統的な思考が残るとされている南部や中西部を訪れる機会をいずれつくって、自ら調べてみたいと思っています。

 今月、妻が夏休みを取り、アラスカまで家族旅行に行きました。機内で子ども2人が寝ていたこともあり、久々に夫婦でじっくり話したのですが、またまた口酸っぱく説教されました。私が、他の日本人主夫の奥様に「旦那さんに対して、申し訳ないという思いはないのですか」と尋ねるのはやめたほうがいい、と言うのです。同調を求めようとしているつもりは毛頭ないのですが、「あなたの聞き方は、記者の質問そのものだから、相手を追い込んで、認めさせるような雰囲気があるのよ」と諭されました。私としては、悪気は全くないのですが、ついつい無意識のうちに、長年の職業病が出てしまっているとのこと。

 妻の言い分は「あなたは『キャリアを中断して、付いてきてやった』感をまだ残しているけど、あなたよりも若い旦那さんは、そもそもそんなこと思ってないから」というものです。確かにその通りかもしれません。共働きが私よりもさらに当たり前の世代と、私との間で見事に認識がずれており、私自身、まだ伝統的な価値観に染まっていることが露呈してしまったようです。

(文・写真提供/小西一禎)

小西 一禎(こにし・かずよし)
小西 一禎(こにし・かずよし)

1972年生まれ。5歳の長女、3歳の長男の父。埼玉県出身。昨年12月より、製薬会社勤務の妻の転勤に伴い、家族全員で米国に転居。NYマンハッタンのハドソン川対岸で、日本からの駐在員が数多く住むニュージャージー州に在住。1996年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。熊本、福岡、静岡での記者勤務を経て、2005年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。2015年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。2月から福井新聞で「政治記者から主夫へ 米ニュージャージー便り」を連載中。ブログ(http://americalife.hatenadiary.com/)では、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。