海外に転勤した夫に付いていく妻は、ちまたでは「海外駐在員の妻=駐妻(ちゅうづま)」と呼ばれます。では、妻の転勤に付いていった夫は「駐夫(ちゅうおっと)」――? 共働きであれば、いつ起きるか分からないのがパートナーの転勤です。妻の米国への転勤を機に会社を休職し、自ら「駐夫」になることを選択した大手メディアの政治記者、小西一禎さん。そんな小西さんが、米国NYで駐夫&主夫生活を送りながら、日本の共働きや子育てにまつわる、あれやこれやについて考える連載です。
今回は、小西さんが、自分やパートナーが海外転勤に直面した男女4人に話を聞きました

 この連載を始めて以降、世界中の駐妻さん、駐夫さん、並びにプレ駐妻・駐夫さんから連絡を頂く機会が増えました。ある日、パートナーの海外赴任を突然聞かされる――彼、彼女らはどのように思い悩み、行動したのでしょうか。今、どんな日々を送っているのでしょうか。

 最近、転勤について「人権侵害だ」との声を耳にすることも増えてきています。国内異動と比べると、海外転勤はかなり事情が異なります。夫婦どちらかの海外赴任が決まり、パートナーと同じ都市、同じ国、ないしは近隣諸国への転勤希望がかなえられた知り合いはいるとはいえ、極めてまれです。今回は、「転勤」というテーマに原点回帰し、実際に海外転勤した人、海外同行休職制度を活用した、あるいは辞職して同行した男女4人に話を聞き、男女それぞれのキャリア形成を考えます。

新婚の夫を置いて、バンコクで単身赴任

 タイ・バンコク在住の白鳥かれんさん(仮名、30代前半)は、初の海外赴任で充実した毎日を送っています。もともと、海外志向が強く、ようやくつかんだ夢の実現です。半ばあきらめていたころ、転勤話が突如舞い込んできました。婚約者に「2、3年駐在しそうなんだけど、どうかな」と相談したところ、「好きにして良いよ」との返事。思い切って「付いてくる?」と彼に尋ねたものの、自らのキャリアを途切れさせたくないとの彼の強い意志を感じました。付いてきてほしい思いはあり、「ともすれば……」との期待を抱いていましたが、一人での赴任を決断。納得できた背景には、彼のほうが年収が高く、もったいない、との気持ちもありました。

 政府の女性活躍推進政策を受け、会社側は社内でも少ない女性総合職を辞めさせないようにするため、かれんさんに相当気を使ったそうです。結婚と海外転勤が重なったので、転勤を打診された際も、「今なら断ることもできるから、よく相談して」と役員クラスから言われました。この会社では、女性は海外赴任地を希望できる上、男性よりもかなり早い段階で内示を通達されます。さらに、女性が優先的に管理職に引き上げられており、全社的に男性からのやっかみや不公平を訴える声が広がっているともいいます。

 女性の海外単身赴任は、彼女が3人目。渡航前には「単身で行くなんて、信じられない」「夫を置いていくのか」と海外赴任経験のある複数の中年男性社員から驚かれました。彼らの時代は、妻が海外に同行し、生活を支えるのが当然でした。かれんさんのようなケースを思い浮かべる余地が頭の片隅にもないため、思わず直接的な言葉が口に出てしまうようです。かれんさんは「女性を育てると唱えても、駐在員への視線は古いままです。会社の福利厚生も専業主婦家庭を前提としています」と不満を漏らします。