アジアでの単身赴任を終え、夫に付いていくため退職

 藤原みちるさん(仮名、30代後半)は、自身のアジアでの赴任が決まった際、「駐在から帰ってきたら、(夫の)海外赴任に付いていく」と夫に約束しました。みちるさんの単身赴任から2年後、夫が渡米することになり、約束が念頭にあったみちるさんは、ほぼ条件反射的に、アジア赴任終了後に会社を辞める意向を上司に伝えました。将来的な身の振りを戦略的に考える余裕はあまりなく、とにかく辞めること以外は考えられませんでした。

 「駐在させてもらっているという意識が強すぎて、早めに報告しないと迷惑をかけると思っていました」。みちるさんは当時を振り返ります。配偶者の海外赴任による休職制度はなく、次のステップに進んだほうが良いと思ったのです。しかし、実際に辞める時期が近づくと「やっぱり辞めたくない」との気持ちが頭をもたげてきます。「産休や育休を付ければ、辞めずに済んだかもしれない」など、心の引っかかりを抱えたまま、渡米しました。

 納得したはずのキャリア中断でしたが、最初は「付いてきてやった感」が拭えなかったそうです。夫にその思いを伝えても「付いてくると約束したよね。今さら、ゼロに戻そうと言われても困る」の一点張り。みちるさんが使う車を購入する際、見解が食い違い、稼ぎがないがゆえに悔しい思いをしました。時には涙を流しながら話し合いを重ねて、価値観をすり合わせ、夫が発言に十分気を付けると約束したため、新生活は軌道に乗り始めました。

 「キャリアを築き上げたい自分と、夫を支えたい古風な自分が同居しているんです」と冷静に分析するみちるさん。現在は大学院入学という明確な目標ができ、帰国後のキャリア再設計を見据えています。「『これをするために米国に来た』『米国で〇〇をやり終えた』と堂々と言えるようになりたいです」

「働き口のない自分の情けなさに耐えられない」

 平澤野安さん(34)は妻のシンガポール転勤を受け、同行休業制度を活用し、地方公務員を休業しています。ところが、休業中の身でありつつも、転居から半年ほど経過したころから、公務員になる前に勤めていた日系企業の現地法人に就職しました。「海外に出ても、一人でいる時間が一番長く、英語も使いません。働き口のない自分の情けなさに耐えられないとの思いもありました」。「駐夫になる」という決断に対し、実母はまったく理解を示してくれず、とにかく「男が仕事をしていないこと」に抵抗を見せたそうです。今回、仕事を始めることを実母に伝えると「心なしかうれしそうだった気がします」と言います。