渡米直後からしばらくは、お互いの考え方や意見に耳を傾け、平和に議論を重ねつつも、最終的にはほぼすべて私の意向に沿った方針になっていました。ところが最近は、以前よりも率直かつ真剣に意見を交わすあまり、理解してもらえないことに我慢できなくなった私が、まずは声を荒らげます。

 すると、妻も一歩も引くことなく「応戦」してくるのです。それを受け、私が一段とエキサイト。その瞬間、もれなく長女と長男は手加減なく、私の体を叩いてきます。有無を言わさず、私=パパが悪者にされてしまいます。

 教育上よくないのは分かっていますが、なかなか夫婦げんかがなくなりません。なぜなのか、理由をいろいろと考えてみました。

妻がどんどん強くなっていく

 要は、妻が米国で働く日が長くなるにつれ、さまざまな意味でどんどん強くなっているからなのです。他方、曲がりなりにもメディアの世界で戦っていた私ですが、現在は戦っていません。弱くなっているとは決して思いませんが、戦う相手が妻になってしまったのです。よって、戦闘エネルギーはけんかに注がれることになります。

 では、どうして、妻は強くなったのか。多国籍の人々が集い、競争が激しい米国社会で働くこと自体、多大なストレスにさらされているはずです。一方で、プレッシャーがかかる中、頑張っていい結果を出せば、実力が認められ、勝ち抜ける。自ら勝ち取った米国勤務ですから、早々に結果を出さなければいけないという焦りも去来していると思います。また、本人は否定しますが、大黒柱として頑張らなければという意識もあるのかもしれません。

 日本で生活していたら、恐らくバトルになるまで話し合うようなことはなかったと思います。おいしい食事に恵まれ、治安も悪くない日本ですから、米国で暮らしているだけで感じてしまうようなストレスもないはずで す。転勤でもない限り、 双方のキャリアプランと子どもの教育方針は明確に描けます。帰宅が遅かった私に対し、そもそも妻は家事・ 育児への積極参加をあまり期待しておらず、役割分担を巡る争いも起こり得なかったでしょう。

 ところが今は、主夫である私への家事・育児に関する期待感がそもそも高まっているため、求めるレベル自体が跳ね上がっています。私に対する姿勢や当たりが強くなってきている一番の理由は、ここにあります

夫婦関係の根っこの部分は今のほうが強まっている

 とは言え、夫婦関係の根っこの部分は今のほうが強まっていると感じます。徹底的に話し合うことで、正面から向き合っている実感はあります。激しいけんかこそしますが、コミュニケーションが全くないよりは好ましいと確信しています

 そして、バトルをしたところでなんだかんだ言っても「結局は協力しないと、子連れでの異国ライフを生き抜けない」という、半ば諦めにも近い認識が私と妻の底流で共通していて、いつの間にか歩み寄っている気がします。それに伴って、子どもも含めた4人家族としての結束力は高まっています。

 年末年始の約3週間、家族全員で一時帰国した折、久々に職場にも顔を出し、ニュースが飛び交う光景に心が躍りました。ランチを共にした直属の上司からは、当然ながら復帰時期の見通しを聞かれましたが、こればかりは妻の会社の都合なので明確に答えられません。そんな自分にもどかしさを感じつつ、自分のキャリアを犠牲にした主夫・駐夫はいつまで続くのだろう、と独りごちたものです。