子どもは泣くのが仕事です。周囲がそれを受容し、泣きやむのを待つのが当然視されています。親が受けるプレッシャーは、日本とは比べ物にならないはず。一概には言えませんが、日本よりは子育てしやすいと思います。日本では、子どもの泣き声が、聞く人によっては迷惑の対象となってしまっていて、親が必死で泣きやませている光景が珍しくないのは、残念なことです。

米国に来て感情をストレートに表せるように

 日本社会では、一般的に、男性が感情をストレートに出すのはタブーとされてきました。私より上の世代は言うまでもありませんし、46歳の私の世代ですら、その風潮は残っています。家庭でも事情は同じではないでしょうか。

 ですが、渡米後、わが子に対し、臆面もなく「大好きだよ」と伝えられるようになりました。ハグやグータッチは欠かしませんし、子どもが泣き始めたときは全身をくるむように抱きかかえ、その悲しみや悔しさ、痛みを正面から受け止められるようになりました。以前でしたら、頭をなでて終わりでしたから、なかなかさま変わりしたものです。

 日本社会で暮らしたままでしたら、私自身、こうした子育てはまず実践できなかったでしょう。時間も余裕もありませんでしたし、自分の都合がいい時だけ、子どもに接するような自己満足の愛情を注いでいたのかなと思います。

今の私に、「時間がない」という言い訳はあり得ません

 日本語教育を絶やさないために、通信教育教材が毎月、日本から届きますが、計算や間違い探し、迷路などができたときには、大げさに一緒に喜ぶようにしています。ウンウンうなりながら、何とか達成したわが子が満面の笑みで見つめてくれると、気恥ずかしいですが“子育てしている感”満載になります。

 時折、よこしまな親心が邪魔して「こうしたほうが簡単にできるよ」などと効率的なやり方を教えてしまうときがあります。すると、子どもたちは「自分でやるっ。黙ってて」とぴしゃり。私よりも、子どものほうがよっぽど柔軟に変化しているようですし、自主性を着実に育んでいます

 私にとって今、時間がないという言い訳はあり得ません。パパが前面に立って、育児を担い、子どもたちと日々全力で向き合えていることが、どういう影響を与えているか。その答えが出るのは、しばらく先になりそうですが、もう少し大きくなったら、子どもたちに聞いてみたいと思っています。「アメリカにいた時、パパといる時間が長かったけど、どうだった」と。

(文・写真提供/小西一禎)

小西 一禎(こにし・かずよし)
小西 一禎(こにし・かずよし)

1972年生まれ。6歳の長女、4歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月より、製薬会社勤務の妻の転勤に伴い、家族全員で米国に転居。NYマンハッタンのハドソン川対岸で、日本からの駐在員が数多く住むニュージャージー州に在住。1996年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。熊本、福岡、静岡での記者勤務を経て、2005年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。2015年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。福井新聞で「政治記者から主夫へ 米ニュージャージー便り」を連載中。ブログ(https://www.chu-otto.com/)では、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。